『6秒間の軌跡』さまざまな境界線を超えた最終回 高橋一生の“3番目の憂鬱”を願って

『6秒間の軌跡』境界線を超えた最終回

 古き良きホームドラマのテイストにファンタジーの要素を織り交ぜたこのドラマのように、星太郎のきのこ型の花火には少しだけ伝統を覆す意味があったのではないだろうか。花火のレシピも人から人へと渡るたびに手が加えられ、時代に合わせて変化していく。それは決して悲しいことではなく、花火そのものを次世代に残していくために必要なことだと星太郎は思えた。

 ふみかが父親に認められたい一心で配合レシピを持ち出したことを謝罪しに来た日の夜、星太郎は新しい紅のレシピを他の花火屋に公開すると告げる。星太郎は結婚して子供を持つでもなく、新しく弟子をとるでもなく、そうすることで望月煙火店の技術を後世に伝えていくと決めた。それを元に、ふみかや他の誰かがさらに良い花火を作ってくれることを期待して。

「花火師のためじゃなくて、花火のためにそうしたい」

 その決断は星太郎の花火に対する究極の愛だ。シーズン2はふみかという新しいキャラクターの登場により、内側に向いていた意識が少し外に広がった星太郎の「上げたいから上げる」という“自己満足”のその先を描き出した。ふみかが加わることで会話のテンポも良い意味で崩れ、父である航との関係も少し変化し、花火師として対等に話ができるようになった。

 そんなシーズン2においても変わらずにいてくれたのがひかりの存在だ。星太郎曰く、ひかりが上げると花火がなぜか客の正面を向くという。そんな“神通力”を持ったひかりは基本的に後ろ向きな星太郎のことも、正面を向かせてくれる。「水森さんじゃなきゃダメなんだよ」という星太郎のセリフは無意識のプロポーズに聞こえたが、「それってぇ、私が神ってことですよね」とふざけて返すのがひかりらしいというか何というか……。2人の関係がラブに発展することはないかもしれないが、ひかりにはずっと星太郎のそばにいてあげてほしい。

 シーズン1はカメラが俯瞰になり、スタジオセットの全体像を見せるという斬新なラストシーンだったが、シーズン2は星太郎が航とのやりとりをテレビで観ているシーンで幕を閉じた。本作はこうしたメタ的な演出でフィクションと現実に一線を敷いているようにも、曖昧にしているようにも思える。このドラマの重要な舞台である縁側が家の外なのか、中なのか分からないように、航が行き来する“あの世”と“この世”、フィクションと現実の境界線も曖昧で本来は緩やかに繋がっているものなのかもしれない。その証拠に本作が届けてくれる花火のような煌きは一瞬でも、心に長く続く余韻をもたらす。また、いつか星太郎たちに会えますように。本人には些か悪いような気もするが、星太郎に3番目の憂鬱が訪れることを願っている。

■配信情報
土曜ナイトドラマ『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』
TVer、TELASAにて配信中
出演:高橋一生、橋爪功、本田翼、宮本茉由、小久保寿人、原田美枝子
脚本:橋部敦子
監督:藤田明二(テレビ朝日)、竹園元(テレビ朝日)、松尾崇
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、後藤達哉(テレビ朝日)、山形亮介(KADOKAWA)、新井宏美(KADOKAWA)
音楽プロデュース:S.E.N.S. Company
音楽:森英治
主題歌:ケツメイシ「泣いても笑って」(avex trax)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:KADOKAWA
©︎テレビ朝日
公式サイト :https://www.tv-asahi.co.jp/6byoukannokiseki_2/
公式X(旧Twitter):@6secEx
公式TikTok:@6secex

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