『守護教師』に学ぶマ・ドンソクのような生き方 『君たちはどう生きるか』との共通点も

『守護教師』マ・ドンソクのように生きろ!

 断っておくと、本作は『犯罪都市』シリーズのようなマ・ドンソク大暴れ映画ではない。本編の多くは現実的でありふれた厭な話であり、マ・ドンソクのアクションシーン自体それほど多くなはい。しかし、だからこそ「ここぞ!」というタイミングで炸裂するマ・ドンソクの鉄拳に胸が熱くなる。

 地方都市の閉塞感も権力の癒着も鍵のかかった扉もマ・ドンソクの鉄拳が吹き飛ばす。このカタルシスは田舎の闇を題材にしたサスペンスにジャンル:マ・ドンソクをブチ込んだことによるところが大きい。本来なら普遍的でままならない話である本作の出来事も、マ・ドンソクの存在によってなんとかなっている。逆に言えば、我々の世界ではどうにもならないということだ。だからこそ、我々一人ひとりがマ・ドンソクであろうとしなければならない。そう、本作はマ・ドンソク映画であり、我々にマ・ドンソクをエンパワーメントする映画でもあるのだ。

 少し、本作と『君たちはどう生きるか』のラストについてネタバレさせてもらう。物語の最後、ギチョルは町を去る。ギチョルによってもたらされた変化は、この町からギチョルがいた証を消し去っていく。だが目覚めたユジンの枕元には、ギチョルがUFOキャッチャーでゲットしたあの熊のぬいぐるみが置かれている。まるっとした愛らしいシロクマのぬいぐるみは、パツンパツンの白シャツを着たマ・ドンソクを思い出させる。そう、シロクマのぬいぐるみは『君たちはどう生きるか』(2023年)で眞人が持ち帰った石と同じものだ。『守護教師』を観た我々は、ユジンのようにマ・ドンソクの意志の欠片を持ち帰るのだ。少しでもいい、我々はマ・ドンソクのように生きねばならないのだ。

 『守護教師』は田舎の闇を描いたサスペンスであり、そこにマ・ドンソクをブチ込んだジャンル横断的傑作であり、そして我々にマ・ドンソクをエンパワーメントする映画である。ありふれた作品のようで、実のところ唯一無二の魅力を放っている。少なくとも、いざという時に鍵のかかった扉を拳でブチ破れるほどの上腕二頭筋でありたいと思えるのは間違いない。

■配信情報
『守護教師』
Netflixにて配信中
出演:マ・ドンソク、キム・セロン、イ・サンヨプ、チン・ソンギュ
監督・脚本:イム・ジンスン
2018年/韓国映画/韓国語/100分/シネマスコープ/5.1ch/字幕:矢口理恵/映倫G
/英題:Ordinary People
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