マ・ドンソクはなぜ“マブリー”なのか LDHとのエージェント契約で期待高まる日本での活躍

マ・ドンソクはなぜ“マブリー”なのか

 誰にでも、「この人が出ている作品ならみよう」と思う俳優がひとりはいるのではないだろうか。

 筆者の場合、アーノルド・シュワルツェネッガーとマ・ドンソクだ(筋肉が好きなのだ)。

 筆者がマ・ドンソクという俳優を知ったのは、出世作と言われる『新感染 ファイナル・エクスプレス』ではなく、『悪人伝』だった。マ・ドンソクは武闘派のヤクザの親分チャン・ドンスを演じていた。一本気で、舎弟から慕われるのはもちろんのこと、警察からも一目おかれている。ヤクザのルールを守らないヤツは徹底的に痛めつける一方で、一般人には礼儀正しい。しかし、自分を傷つけた人間は地の果てまでも追い詰める。マ・ドンソクは、人間ドンスのさまざまな側面を表情だけで演じ分けていた。怪物級の演技力を持った俳優がいるとは驚いた。

 その後、『新感染 ファイナル・エクスプレス』を観て完全にノックアウトされた。マ・ドンソクは、準主役の立ち位置なのだが、考えるより先に体が動いてゾンビ退治をしてしまうお洒落マッチョとして、主役のコン・ユを食う勢いで活躍していた。マ・ドンソクの男気あふれる戦いぶりに、胸を熱くした人は多いはずだ。

 2021年には、MCUの『エターナルズ』でギルガメッシュ役を演じ、これからはハリウッドで活躍していくのかと思いきや、2022年1月にビッグニュースが報じられた。なんと、日本のLDH JAPANとエージェント契約を締結したというのだ。

 これからは日本でのメディア露出も増えるだろうと期待されるマ・ドンソク。今回は、彼の魅力を掘り下げたいと思う。

強面からコメディまでこなす高い演技力

映画『ファイティン!』予告編

 マ・ドンソクの魅力はなんと言っても、演技の幅の広さだ。

 彼は、俳優になる前はボディビルダーにしてマーシャルアーツのトレーナーだったこともあり、アクションが得意だ。『新感染 ファイナル・エクスプレス』では、先頭に立ってゾンビと戦うヒーローを演じ、『犯罪都市』では凶悪なヤクザも恐れない最強の刑事を演じた。『ファイティン!』では腕相撲でのし上がるストイックで心優しい男を熱演している。『ファイヤ-ブラスト 恋に落ちた消防士』では責任感のあるタフな消防士役だ。

  重量のあるパンチを繰り出す肉体派演技を得意とするのかと思いきや、『ブラザー』や『グッバイ・シングル』のようなコメディもそつなくこなす。『ブラザー』では、プロテインを飲みまくって体を鍛えたトレジャーハンターを好演。細身の弟のひよこ柄のスウェットを着た時のパッツンパッツンの姿は、それだけで笑いを誘ったし、ラストでは観客を感動の渦に巻き込んだ。

 『グッバイ・シングル』では、落ち目の女優を支える面倒見の良いスタイリストとして、カラフルなファッションに身を包み、家事とダンスのスキルを披露。引き出しの多さと、どんな服でも着こなせるファッショニスタとしてのポテンシャルの高さも見せつけた。

 昨今は屈強な体を持つ俳優が、アクション映画以外でも活躍するのが当たり前となっている。アイヴァン・ライトマン監督がアクション俳優として推しも押されぬ大スターだったアーノルド・シュワルツェネッガーをコメディに出演させたことで、ジャンル俳優の常識をぶち破った。

 それ以降、俳優の知られざる側面を掘り下げるブームがやってきた。今では、肉体派で知られる俳優がコメディに出るのは当たり前だ。だが、アーノルド・シュワルツェネッガーや、シルヴェスター・スタローン、ドウェイン・ジョンソン、ヴィン・ディーゼル、クリス・ヘムズワースなどの肉体派は、ヒーローのイメージが強い。ヒールを演じたことがないわけではないが、彼らから発せられるヒーローオーラが強すぎるため、観る側が混乱してしまうのだ。

 ところが、マ・ドンソクはもともと強面なため、ヒールもしっかり演じることができる。ヒールはとことん悪く、ヒーローは安定感を出し、コメディは意外性を持って笑いをとってくるのだ。

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