『犯罪都市 NO WAY OUT』は完璧な“マ・ドンソク映画” 「悪党一掃」の宣伝文句に偽りなし
暴力わらしべ長者映画の傑作が三度降臨! 断言するが『犯罪都市 NO WAY OUT』(2023年)はマ・ドンソク映画が好きな人にとって完璧な映画である!
お話は少し複雑だけど、観ているあいだは単純明快。クサレ外道の汚職刑事チュ・ソンチョル(イ・ジュニョク)は、日本のヤクザの韓国支部と組んで、麻薬を横流しする悪行に手を染めていた。大口の取引も決まって人生大成功かと思いきや、日本側が、韓国支部の連中が麻薬を勝手に売っていることに気が付いた。ブチギレたヤクザの会長(國村隼)は、韓国支部と汚職刑事を片づけるために凄腕の殺し屋リキ(青木崇高)率いる武闘派軍団を派遣する。かくしてドグサレ汚職刑事×どん詰まり韓国ヤクザ×ブチギレ日本ヤクザの血で血を洗う三つ巴の抗争が始まった。全員がド短気で、しかも息を吸うように人を殺すので、その抗争はさながらトリックが一切ない『名探偵コナン』。行く先々で死体の山が出来上がっていく。一方その頃、血みどろの争いを繰り広げる悪党どもに、正義の心と規格外の超暴力を併せ持つ怪物刑事マ・ソクト(マ・ドンソク)の鉄拳捜査が迫っていた……。
この世には暴力わらしべ長者というジャンルがある。悪党を殴って情報を集めていくお話だ。悪党を殴れば殴るほど、出てくる悪党のランクが上がっていき、最終的にラスボスまで辿り着くのである。前作の『犯罪都市 THE ROUNDUP』(2022年)は、その理想形だった。今回もその基本はバッチリ踏襲されている。その成り上がりのテンポ感たるや軽快そのもの、観ていて非常に心地よい。1作目の『犯罪都市』(2017年)にあった実録モノの匂いはドンソク消臭力で消え去ったが、要所では生々しい暴力描写を入れてくるので、最後まで緊張感もキープしている。ちなみにエンディングの安定感も凄まじく、この思い切りのよさは見習っていきたいと素直に感心した。日々の鬱憤を晴らすだけではなく、ある種の労働賛歌としても本作は非常に魅力的だ。
一方で、ハッキリと変化……否、進化した部分もある。それはマ・ドンソクのファイトスタイルだ。今回からはボクシングを大々的に導入。フットワーク、フェイント、ウィービング(Uの字を書くように体を動かしてパンチを避ける)、パーリング(相手のパンチを弾く)などなど、野生と科学が融合したボクサーの理想像(©️森川ジョージ先生)を見せてくれる。ボクシングの導入は大成功で、アクションシーンの完成度だけでも本作は観る価値があると言っていい。ドンソクの巨大な体が軽快に動き回っていると、ヒグマが凄い速度で走っている映像を見た時のような、「あ、こりゃ遭遇したら死ぬわ」という気分にならざるをえない。そしてテクニック重視のアクションを見せるからこそ、テクニックもクソもない全力パンチの常軌を逸した破壊力の説得力も増すのだ。これだけ凄い人が全力のパンチを打ったら、そりゃ人間くらいなら何メートルも飛ぶわな、と。