『虎に翼』伊藤沙莉が体現する“怒り”と“失望” 穂高の“悪意のない言葉”が寅子を刺す

『虎に翼』“悪意のない言葉”が寅子を刺す

 穂高が寅子をなだめ、促すような言葉を発する度、2人の間に大きな溝ができていく。「人にはその時代、時代ごとの天命というものがあってだね……」という穂高には、今まさに目の前の障壁に立ち向かおうとする寅子の姿は映っていない。「また君の次の世代が、きっと活躍を……」という穂高に、寅子は声を荒らげる。

「私は今、『私の話』をしているんです!」

 「私の話」をないがしろにされた寅子が憤りをあらわにするのも当然だ。続けて伊藤は、寅子が味わう“分かり合えない”苦しさをその表情であらわす。怒る寅子に対して、穂高は「あまり大きな声を出すと、おなかの中の赤ん坊が驚いてしまうよ」と、一見身重の寅子を気遣うようで、目の前にいる寅子の怒りをないものにする言葉を発する。その言葉を受け、寅子はしばらく厳しい顔で穂高を見つめていたが、諦めたように笑った。反論を続けても埒が明かない。穂高が単純に寅子と対立する立場であれば、もっと反論できたかもしれない。だが、そもそも穂高は結婚した女性の第一の務めは子を産み、よき母になることだと考えている。はじめから、自分の思いは伝わらなかったのかもしれない。対話を諦めるしかない状況に笑うその声はむなしさに満ちていた。

 戦争の激化に、家庭と仕事を両立するのが厳しい現実、寅子と寅子が生きる時代にそびえ立つ壁はあまりにも大きい。優三(仲野太賀)は寅子に嫌なことがあったのだと察しながらも、決して聞き出そうとはせず、一緒に美味しいものを食べる。彼の優しさに触れ、寅子は「この人とただ穏やかに毎日を過ごせたらどんなにいいか」と思う。そう思いながらも、語り部(尾野真千子)によって語られる「何で私だけ」という言葉に胸が締め付けられた。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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