鈴木亮平の肉体には“実写ならでは”の魅力がある 『シティーハンター』は理想的な成功例に
Netflixで配信が開始された実写版『シティーハンター』が大評判だ。
配信開始の翌日には、「日本の今日の映画TOP10」1位を獲得。「日本の週間TOP10(映画)」でも2週連続1位に輝いたほか、「週間グローバルTOP10(非英語映画)」(4月22日〜28日)でも初登場1位を記録。さらに、フランス、韓国、香港、ブラジル含む世界50の国と地域でも週間TOP10入りを果たしている。SNSでは原作をよく知る往年のファンから「圧倒的な再現度と面白さ」と絶賛が相次ぎ、原作未読の海外視聴者や若い世代からも「続きはないのか」「原作マンガやアニメを観たくなった」という声がたくさんあがっている。
本作は、原作マンガの持つ世界観を逐一大事に描くことで往年のファンを納得させることに心を砕いた内容で、往年の『シティーハンター』ファンが楽しめることはもちろん、一本の映画作品として的確なアレンジを施し、原作を知らない人に『シティーハンター』の魅力を伝えることにも成功している。これは実写化の理想的成功例と言えるだろう。
「実写化」という言葉が頻繁に使われるようになって久しい。しかし、「実写化」は何かと心配され、議論の的になり、時に大きな炎上もしてきた。だがここにきて、ようやく「実写化」は一つの壁を越えて、大きく花開こうとしている。昨今は『幽☆遊☆白書』や『ゴールデンカムイ』など国内から見事な実写化作品が登場しており、この『シティーハンター』もそれらに連なる作品と言える。何が本作を成功に導いたのか、考えてみたい。
実写に求められるリアリティラインの引き直し
本作は、原作序盤の最も大きなエピソードであるエンジェルダスト編を巧みに構成し直して、新たな物語に仕立て上げている。ただそれだけに留まらず、『シティーハンター』で最も頻出するボディーガードの仕事風景も中盤に用意し見せ場としており、作品全体の持つ魅力を的確に詰め込んでいる。
ストーリーだけでなく、衣装や小道具などあらゆる点で原作ファンをうならせる要素が大量だ。お馴染みのロングコートを華麗になびかせ銃を操る鈴木亮平の姿に、ファンは「確かに冴羽獠だ」と思うだろう。愛車の赤いミニクーパーも登場する。あの車が新宿の町を走っているだけでも原作ファンは泣けるのではないか。また、原作ファンには馴染み深い「トンボ」や「カラス」マークも、画面をくまなく見ると小道具の中に発見することができる。
また、冴羽獠の住むアパートのレイアウトが原作準拠であるのも嬉しいポイントだろう。リビングも獠の寝室も、ほぼ原作を忠実に再現しているし、細かく見ていくと随所にファンには思い出深いアイテムが置かれている。アパート内の射撃場も登場し、ど真ん中を打ち抜き続けるピンホールショットも見せてくれる。原作ファンを喜ばせるトリビアは大量に隠されているので、何度観ても楽しいだろう。
ただ、本作はそうした小ネタが多いから面白いのではない。映画としてしっかり完成度が高いから面白いのだ。マンガ実写化で作り手の頭を悩ませるのは、リアリティラインの設定だ。マンガでは、100トンの巨大ハンマーで殴られても次のページでピンピンしていても問題はないが、実写で同じことをやると上手くいかない。しかし、『シティーハンター』はハードボイルドなシリアスさとギャグが両立している作品なので、どちらの要素も外さずに生身の肉体で表現して違和感のないものとせねばならない。
特に難しいのは、香のハンマーの扱いだっただろう。マンガならではの誇張表現として成立していた香のハンマーをどう実写空間に持ち込むか。そのままやったのでは作品のバランスを壊しかねない難題を、本作の制作陣は巧みな方法で自然に香にハンマーを持たせることに成功した。
リアリティラインは、見せ場となるアクションシークエンス全般にも求められる。原作マンガの主人公は、無敵のスイーパーとして実にマンガらしい強さを発揮するが、本作はその強さの印象はそのままに、人間ができる肉弾戦の範疇から離れずに凄腕のガンマンとしての説得力を持たせている。体術と手慣れた銃さばきの所作を組み合わせることで、実用的な戦い方を見せ、「確かにこいつは強い」という説得力をもたらしている。
脇を固める登場人物にはオリジナルキャラクターも配置しているが、美人刑事でお馴染みの冴子も登場するし、海坊主も実はどこかに登場している。しかも、海坊主を演じるのはマフィア梶田であり、そのそっくりぶりはだれも否定できないだろう。安藤政信演じる槇村のたたずまいは原作を的確に再現しているし、森田望智の香も実に自然体でいい。上述したリアリティラインの遵守という点で、香の芝居はかなり繊細さが要求されたはず。とりわけ、物語の序盤の香は表社会を生きる女性なので、どこにでもいる女性のリアリズムも要求され、それでいて芯の強さも表現する必要があるが、森田望智は両方を見事に体現していた。
そして、当然エンディングに流れるのは「Get Wild」の新録版だ。全編通して見事に原作やアニメファンがよく知る『シティーハンター』の世界が実写の世界で表現されている。
しかし、本作は原作ファンのためだけのものには、決してなっていない。本作は、知識を問わず楽しめる映画作品として完成度が高い。序盤のアクションシーンからスムーズに物語が流れ、中盤のコミカルなシーンで主人公の多面的な魅力を表現しつつ、アクションシーンを随所に挟み、キャラクターの魅力を存分に発揮している。冴羽獠が女に弱いが凄腕のスイーパーであるということを、最初のアクションシークエンスだけで的確に表現できている。しかも、舞台が新宿であることを印象づけるために夜の街を一望できるよう、空中から敵地に乗り込むアクションを選択しているのも良い。
そして、スイーパーの仕事は裏の汚れ役であるが、同時に弱きを助けるものであることも物語を観ているだけで納得できる構成になっている。冴羽獠はあんなにスケベでいい加減な性格なのに、どういうわけかカッコいい。脚本のさじ加減もいいのだろうが、やはり鈴木亮平の芝居の説得力が大きい。人間としての軽さと深さが同居する冴羽獠の傑出したキャラクター性を1時間44分の時間で見事に詰め込んでいるため、むしろ、原作未読の人にこそオススメできる内容になっている。
『シティーハンター』を知らない人は新たに冴羽獠という男を知ることができ、原作ファンは冴羽獠にもう一度再会できる。これはそう言いきれる完成度の作品になっている。