“映画とアニメの境界”をアカデミー賞などから考える 2024年春のアニメ評論家座談会

2024年春のアニメ評論家座談会

Z世代と新潟国際アニメーション映画祭で考えるアニメ業界の未来

杉本:Z世代は世界的にアニメを普通に観ていると色々な統計で言われてるのですが、10年後、20年後には、アニメのリテラシーは今とは比べものにならないほど普及していると思います。そうなれば、ジブリ的なアニメと深夜アニメ的なアニメの垣根を意識する人はほとんどいなくなるでしょう。だから、『鬼滅の刃』のような作品がアカデミー賞に食い込んでくる可能性だって十分にあると思います。

渡邉:実際、今年のアカデミー賞でも『すずめの戸締まり』が候補になっていましたからね。日本のアニメ2作品が入るのはまだ早いと判断されたのかもしれませんが、そのうちそういう時代が来るのではないでしょうか。

杉本:あと面白いのが、ポン・ジュノ監督が今年のクランチロール・アニメアワードの監督賞のプレゼンターを務めた時に、今日本でアニメーションを作っていると発言したんです。パルムドールとアカデミー賞を取った監督が日本でアニメを作るというのは、アニメの文脈を大きく更新することになると思います。

藤津:ただ一方で、国内ではかなり強いジャンルになっているアイドルアニメなどは海外ではどの程度支持されているのか、よくわからないところもあります。

杉本:アイドルものはどの程度かわからないですが、『ハイキュー!!』とか『ブルーロック』は、アメリカの女性アニメファンにも人気らしいですよ。

渡邉:学生からよく聞かれる質問があります。スタジオジブリ作品は世界的に有名で人気も高く、アカデミー賞も受賞しています。一方で、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』のような日本のアニメーション作品がアカデミー賞を獲得することはないのでしょうか、と。どのように説明したらいいのか迷ってしまいます。つまり、ジブリ作品と、いわゆる日本の典型的なアニメーション作品では、需要や評価基準が大きく異なるということですよね。ただ、この流れや勢いを考えると、10年後のカルチャーシーンがどうなっているのか予測がつきません。そこで質問なのですが、『鬼滅の刃』のような作品や、これから登場してくる新たなアニメーション作品が、アカデミー賞やアヌシー国際アニメーション映画祭といった権威ある賞を獲得する可能性について、どのようにお考えでしょうか? もちろん、これは仮定の話ではありますが。

『劇場版 呪術廻戦 0』公開後PV|大ヒット上映中

藤津:賞の立て付けとしては、そもそもある種の文芸性や深さを評価する側面があるので、ヒットの量だけでは選ばれにくい面はあるかもしれません。ただ、その文芸性を評価する概念がいつまで現在のような形で残るのかという話でもありますね。アカデミー賞でもMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)や『スター・ウォーズ』は、特殊効果賞など技術的な評価が中心で、それ以外の賞はそれほどご縁がない。それは作品としてダメという話ではなく、むしろ世界的なIPになったからといって、必ずしも特定の賞を受賞しなくてもいいんじゃないかと思います。賞以外の価値観というものが存在するわけで。

渡邉:アカデミー賞という場の持つ文脈や役割みたいなものは、一定程度は残るのかもしれません。ただ一方で、アニメに対する世界的なリテラシーの変化と共に、評価の在り方自体も徐々に変わっていく可能性はありそうです。

杉本:なので、ジブリ的なアニメといわゆる深夜アニメ的なアニメっていうものの垣根とか境みたいなものを意識する傾向は減っていくのではないでしょうか。『【推しの子】』なども一定の文学性はありますよね『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がアカデミー作品賞を獲ったことは、時代が確実に変わっている証拠です。20年前にタイムスリップして『エブエブ』がアカデミー賞獲るよと言ってもほとんどの人は信じないと思うんです。マイノリティ表象が評価されたのであって、下品な部分やマルチバース的な設定がどこまで評価されているかは分かりませんけど。

渡邉:国内の受賞の状況はどうでしょうか? 新潟国際アニメーション映画祭などは、欧米のアニメーション映画祭とは異なる文脈を作ろうとしている印象がありますが。

杉本:新潟は今のところグランプリはヨーロッパ系の作品が多いですが、アジアのアニメーションがもっと増えてくれば、欧米の映画祭とは異なる文脈を生み出せて、アジアから世界への窓口になっていく可能性もあると思います。今回訪れてそんな感触を得ました。

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藤津:韓国でも個人作家的な長編アニメーションが作られていますから、もう少し韓国のアニメーションが出てくるといいなと思っています、中国は生産量も多く、CGも盛んになってきているので、ちょこちょこ目立った出てきていますね。

渡邉:新潟はまだ国際アニメーション映画協会(ASIFA)の公認にはなっていないですよね。せっかくだからASIFAの公認だった広島国際アニメーションフェスティバル(HAFF)の代わりになれると、より存在感が出てくるんじゃないでしょうか。

藤津:関係者はそこも目標にしているのかもしれません。広島国際アニメーションフェスティバルが終わり、まったく異なる建て付けで始まった、ひろしまアニメーションシーズンも、第2回の今回から長編部門を設けるそうですが、独立した映画祭の体裁ではないんですよね。ひろしま国際平和文化祭という大きな催しの中アニメーション部門という位置づけなので。

杉本:今の日本には、新潟と広島の他、新千歳空港国際アニメーション映画祭と東京アニメアワードもあって、アニメーションの映画祭やアワードが4つほどあるという状況で、東京国際映画祭でもここ数年はアニメーション特集をやっていますし、少しずつアニメーション映画を商業的な価値以外でも具体的な形にして評価していこうという気運が日本にも広がりつつあるように感じます。一般の認知度はまだ分かりませんが、商業的な評価とは異なる物差しを作ることがすごく大事になってきていると思うので、こうした映画祭の存在感はもっと上がってくるのではないでしょうか。

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