『虎に翼』伊藤沙莉にしか表現できない寅子の求心力 「盾みたいな弁護士になる」の誓い
いつものように寅子たちを突っぱねながらも、揺れ動く心の機微をその表情の微細な変化で表す土居志央梨。対して屈託のない笑顔を見せる寅子に、女子部の生徒たちにも笑顔が連鎖していく。第9話で裁判所への課外授業に「行くに決まってるだろ」とよねが返事をした際の、子供のように顔を綻ばせる芝居もそうだが、伊藤沙莉にしか、伊藤沙莉でしか見たことのない動きであり、いつの間にか寅子が女子部を先導する存在、そして彼女の周りには多くの同志がいるという様子をセリフや語りなくして体現したシーンである。
扉の小窓から法廷を覗いていた桂場(松山ケンイチ)。「どこまでが先生の思惑ですか」と尋ねられた穂高はどことなくしたり顔だ。第9話放送後の『あさイチ』(NHK総合)の朝ドラ受けにて、鈴木奈穂子アナウンサーが「女性が傍聴席に多かったとしても判決はそう簡単には……」と話していたように、その考えは誰もが一度はよぎるだろうが、その真実は田中裁判長(栗原英雄)のみぞ知ること。世の中を変えていく、小さな積み重ねの一つであることに変わりはない。
軽やかな足取りで家に帰ってきた寅子は、台所に立つはる(石田ゆり子)と花江(森田望智)に「もしこの先、結婚に絶望しても私が絶対助けてあげる。私、盾なの。盾みたいな弁護士になるの」と誓う。2階に上がっていく寅子に直言(岡部たかし)が「俺は助けてくれないのかー?」と声をかけるが、本放送の前にオンエアされていた事前番組にてこの先の展開を知っている筆者のような視聴者にはドキッとするセリフでもある。
第10話のラストにはカフェー「燈台」でボーイとして働くよね、令嬢として厳しい母親のしつけの下にいる涼子が映し出される。恵まれた場所で生まれ育った寅子がまだ知ることのない2人の姿。第2週はよね、涼子、梅子(平岩紙)、香淑(ハ・ヨンス)といった寅子の同級生が初登場を飾った週であったが、涼子のお付きである玉(羽瀬川なぎ)が甘味処「竹もと」でみつまめを口にし頬を緩めたり、傍聴席にて思わぬ判決から嬉しさのあまり笹山(田中要次)の袖を引っ張っていたりと、セリフが数少ないからこそところどころで印象を残すチャーミングな存在に思えた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK