『ブギウギ』足立紳脚本の誠実さを感じるスズ子と愛子の別れ 母の人生と子への“罪悪感”

『ブギウギ』足立紳の誠実さを感じる別れ

 そんな中、早まったタケシが愛子にスズ子が遠い国に行き、しばらく離れ離れになるかもしれないということを話してしまった。愛子はスズ子にすぐさましがみつき、手がつけられないほど泣きわめく。その反応があまりにリアル。子供なりに感じている不安や寂しさがひしひしと伝わってくる小野美音のわずか6歳とは思えない名演が、スズ子を演じる趣里の罪悪感を引き出しているように見える。

 アメリカに行くべきか、行かざるべきか。簡単に答えが出せない問いと向き合うスズ子の頭に浮かぶのは、愛助(水上恒司)とツヤ(水川あさみ)の顔だ。どんなときもスズ子の味方で、歌手として羽ばたく彼女を誰より応援してくれていた二人。そんな二人がもし生きていたら……とその言葉を欲してしまうのは、スズ子がどこかでアメリカに行くと決めていたから。その上で誰かに背中を押してほしかったのだ。

 それに気づいた善一の妻・麻里(市川実和子)は「もし、私があなたの母親だったら『行ってきなさい』って言うわ」とスズ子の背中を押す。歌手としての自分と、母親としての自分との間で揺れ動くスズ子。対して、「普通の母としてしか生きられないだけ」と語る麻里は自分が望んだわけではないのかもしれないが、主婦として家庭を3人の子供を守ってきた。

 人は自分の生き方を肯定するために、自分とは違う他人の生き方を否定したくなるものだ。けれど、麻里はスズ子の生き方を否定せず、むしろ応援してくれる。逆に言えば、それは誰かとの比較ではなく、自分が自分の生き方に納得し、誇りも感じているからだろう。そんな麻里の矜持と優しさにスズ子はまた救われた。母親の生き方は家庭の数だけあって、正解はない。大切なのは自分が納得できるか否かーー。

 スズ子はアメリカに行くことを決め、そのことを正直に伝えると愛子は再び泣き叫ぶ。ここで愛子に「頑張って」や「行ってらっしゃい」を言わせないところに足立紳脚本の誠実性が表れている。愛子を強く抱きしめ、何度も謝るスズ子。胸が引き裂かれるような思いとともに彼女はアメリカへ旅立つ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie

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