『ブギウギ』教わる側から教える側へ スズ子の成長に携わってきた者と山下の役目

『ブギウギ』スズ子の成長と山下の役割

「羽鳥先生、タナケン、山下さんもそう。わてはいろんな人から、人を楽しませることの面白さ、厳しさ、色々教わってきている。今度はわてがそれをあんたに教える番や」

 新人マネージャーのタケシ(三浦獠太)に向かって言った、スズ子(趣里)の言葉だ。NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第22週は、スズ子のマネージャー交代劇を描くと同時に彼女自身の成長をまざまざと見せつけてくれた。

 村山トミ(小雪)の死をきっかけに、気が抜けてしまったマネージャーの山下(近藤芳正)。長年トミと仕事を一緒にしてきた彼にとって、彼女の死は自分のマネージャー人生の終わりも意味していた。思い返せば、戦後“ブギの女王”の名を確立させた所謂大スターの時期を支えたのは山下だったが、先のスズ子がタケシに向かって放った言葉を思うとマネージャーに限らず彼女に学びを与えてきた人物は多い。

 梅丸少女歌劇団(USK)の大和礼子(蒼井優)に始まり、橘アオイ(翼和希)、茨田りつ子(菊地凛子)、羽鳥善一(草彅剛)、タナケンこと棚橋健二(生瀬勝久)などその名を連ねると皆、共通してスズ子にとっての“先輩”なのだ。すなわち、彼女がこれから入る世界にすでにいて、彼女の知らないことを知っている者たちである。スズ子が持つ主人公としての面白さは、そもそも最初から周りに比べてずば抜けて才能があったり、高いセンスを持っていたりするわけではなく、そういった周囲の天才と呼ばれる人たちからインスパイアされて成長し続ける点にある。だからか、常に彼女は「教わる側」にいた。

 そのため先の発言がより刺さるのだが、さらに興味深いのはその業界の先輩、天才の羽鳥やタナケンに連なって山下の名が登場したことである。山下との出会いのきっかけは遡ること梅丸学劇団(UGD)時代、制作部長であった辛島一平(安井順平)がUGD解散後、スズ子にマネージャーとして五木ひろき(村上新悟)を紹介するも、彼が金を持ち逃げしてしまったので見かねた愛助(水上恒司)が2人を引き合わせたのだった。こう思い返すと色々なことが重なって山下と出会っているが、彼はスズ子の周囲にいたこれまでの誰よりも、彼女に“人生の先輩”としていろんなことを教える人だった。

 もちろん、村山でマネージャー業を何年もやってきた力量がある。しかし彼のマネージャーとしての気質は、五木のようにどんどん公演を引き受けてスズ子に稼がせることばかり考えたり、調子の良いことばかり言ったりしない。むしろ、基本的に選択肢はスズ子に託し、その選択を時には心配したり、マスコミ周りなどで激昂しそうになる彼女の感情を抑えたりするなど、やはり親戚のおじさん目線に近いところでの世話なのだ。

左から、村山愛助(水上恒司)、福来スズ子(趣里)、山下達夫(近藤芳正)。 村山興業東京支社・応接室にて。トミの伝言を聞かされ困惑するスズ子たち。

 それというのもやはり、彼が子供の頃から愛助の世話をしていた背景があるからこそ。ここ最近、自分が親になる経験も含め“大人”になっていくスズ子だが、若い頃に母・ツヤ(水川あさみ)を亡くし、梅吉(柳葉敏郎)からも大人の見本のようなものを教わってこなかったからこそ、山下のような存在に安心感を覚えただろうし、それは最近になって家政婦として勤め始めた大野(木野花)に対しても同じことを感じたはず。

 だからこそ、そんな山下に「もうワシなんかがおらんでも立派にやれます」と言われたことはスズ子にとって初めこそは受け入れ難くとも、大きな意味を持っただろう。家族的な安心感を与えるだけでなく、自身の老いに自覚的で「これからの人と仕事をすべきやと思う」と言える山下は、やはりマネージャーとしても腕の立つ男なのだ。

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