『ブギウギ』を見守ってきた近藤芳正 スズ子をあるべき場所に留まらせてきた言葉の数々
そんな愛助の役目を受け継いだのが山下だ。幼い頃から面倒を見ていた愛助が亡くなり、山下にもきっと身を引き裂かれるような苦しみがあっただろう。それでも打ちひしがれることなく、愛助の死を受け入れられず、生きる気力を失ったスズ子に「辛いんは、あんただけやおまへん」「あんたはボンの分まで生きなあかんのです!」と力一杯訴えかけた。大切な人を失ったばかりの人にかける言葉としては酷に思えるかもしれない。けれどあの時、もし腫れ物のように扱われていたらスズ子はきっと立ち直れなかったはず。山下の必死の訴えがあったからこそ、スズ子は歌手として、愛子の母親として、やるべきことを認識できたのだ。
それから「何があってもあんたを支える」という言葉通り、呼び名も“福来さん”から“鈴さん”に変えてスズ子を家族のように支え、見守ってきた山下。子連れで仕事に現場に行くこと、週刊誌の誤解を解きたいと夜の街へ繰り出すこと……などなど、スズ子の要望にも全力で応えてくれた。それもスズ子が意外と頑固で、一度決めたら曲げないことを知っているからだろう。
第102話で「東京ブギウギ」を超えるヒット曲をレコード会社から求められたスズ子が、「どうやって歌たらヒットするかやなんて考えたことあらへん。ずっと気持ちよう歌て、それをお客さんに楽しんでもろてきただけやのに」と言っていたが、それは山下のおかげでもある。山下がスズ子にただ気持ちよく歌えるよう、他のことを全て請け負ってくれていたのだから。「能ある鷹は爪を隠す」ではないが、パッと見は好好爺そのものなのに意外に侮れない雰囲気は演じる近藤芳正からひしひしと感じていた。
自分のことを自分より理解してくれている。そんな山下の存在はスズ子にとって、どれほど心強かっただろう。少なくとも山下がマネージャーを辞めると言い出し、子供のように駄々をこねてしまうほどスズ子にとっては欠かせない存在だ。山下が自身の代わりにマネージャーとして連れてくる甥のタケシ(三浦獠太)は予告を見る限り、頼りなさそうで不安が募る。けれど、人生のステージが変わる時期がきたのだろう。山下をはじめ、多くの人に導いてきてもらったスズ子が、今度は自分自身が誰かを導く番なのだ。誰かから受けた恩を、直接その人に返すのではなく、別の誰かに送ることを「恩送り」という。義理と人情が重要なワードとなっている本作がいよいよ総仕上げに突入した。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie