『ブギウギ』巧みな脚本によって描かれたスズ子の成長 タイ子やおミネとの間に生まれた絆

『ブギウギ』巧みな脚本で描くスズ子の成長

 歌手として成功を収めながらも、雑誌のインタビュー記事によって街娼から不本意な反感を買ってしまったスズ子(趣里)。NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第20週では、彼女と彼女たちの間で生まれた絆と相互理解が描かれた。

左から、鮫島(みのすけ)、福来スズ子(趣里)

 歌手としてヒットソングを世に出し、順調に日々を過ごしていた。しかし、女手一つで幼い子供を育てる点において、決して彼女が楽をして生活をしているわけではない。それでも世間の抱く彼女の印象は雑誌記者が捻じ曲げた言葉ひとつで変わってしまう。いつの時代も、こういう問題は起きるものだ。昔はSNSもなかったから、スズ子が釈明をしたくても今より簡単にできなかっただろうし、逆にSNSがないからこそ根も葉もない噂話が拡散されることもないのも事実だ。

 今回はドラマのストーリーとしてわかりやすく、スズ子が直接文句を言ってきたファン(街娼)の元へ向かい、彼女たちの現実を理解する展開となった。実際、スズ子のモデルとなった笠置シヅ子も当時、仕事場や稽古場にも子供を連れて頑張っていたことが街娼をはじめとする多くの女性から共感と支持を得ていたのだ。そのエピソードをドラマのストーリーの中にうまく組み込んだのが第20週だった。しかも印象的だったのは、街娼だけでなく幼なじみのタイ子(藤間爽子)との対比である。

左から、タイ子(藤間爽子)、達彦(蒼昴)、福来スズ子(趣里)。 タイ子と達彦の家にて。タイ子に昔を思い出して欲しいと話すスズ子。

 スズ子に歌や踊りの道を勧めた彼女は、戦争で夫を亡くし、息子と二人きりで東京に暮らしていた。自身も病気になってしまったがために、息子が靴磨きで稼いでくるしか暮らすすべがない。「東京ブギウギ」が日本中の国民に笑顔をもたらした、という描写から始まった第20週の冒頭だが、誰もが笑顔になれるわけではないことを描くことも漏らさない。タイ子というキャラクターに、歌なんかで生活の苦しみが消えることがない人々の眼差しを託したドラマ展開に対しても、先の街娼のエピソードと交えながら1週ごとにテーマを据え置いていく脚本のうまさを感じる。

 そしてスズ子は、自分と立場が違えど皆が同じように苦労していること、時には自分よりも苦労して生きている人々がいることを肌で感じて理解する。その理解の有無は彼女の人格や歌に深みをもたらすことになるだろう。

ガード下の路地にて。少年を見つめる福来スズ子(趣里)

 これまでの朝ドラを振り返っても、ヒロインが女手一つで子供を育てる描写はいくつもあった。そこでヒロイン自身の強さを描くのか、苦労を描くのか、何を描くのかは様々だが、『ブギウギ』はスズ子の歌と同様、彼女自身の物語だけでなく彼女の歌を受け取る市井の人々を描くことへのこだわりを感じる。それが結局、日本中に影響を与えた人物をモデルとした物語らしいのだ。

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