『ブギウギ』視聴者は『醉いどれ天使』必見? 戦後描写の違いから見える作り手たちの願い

『ブギウギ』趣里の背中に見たスズ子の人生

 コンサートで、スズ子は「ジャングル・ブギー」を初披露すると、おミネや街娼たちが立ち上がって夢中で一緒に踊る。生きるチカラを取り戻したタイ子も息子と共にスズ子たちの歌を楽しんだ。これまでのスズ子は、ステージでは、数多くのバックダンサーと共に歌っていたが、今回はミュージシャンとコーラス以外はひとりで、客席の街娼たちと共に踊ることで、スズ子の歌が民衆の声の代弁であることが表されたようだった。

 趣里の歌と踊りはとても生真面目で、正確に楽譜と振りを再現しようとしているように見える。そこに「ワオワオ」とパッションで声をあげる草彅剛によって、ライブの弾む感じが加わった。

 羽鳥の言う「とある監督」とは、スズ子のモデルである笠置シヅ子の史実では、巨匠・黒澤明監督で、映画は『醉いどれ天使』である。蚊の涌くようなひどく濁った、池のような大きな水たまりのある街で、酒浸りの町医者(志村喬)とヤクザの若者(三船敏郎)との交流を中心に、戦後を生き抜こうとがむしゃらな人々の姿を活写する。クラブで笠置が「ジャングル・ブギー」を歌い、人々が踊るシーンは、笠置の咆哮にも似た声が、人々の坩堝という大きな鍋を混ぜるようで、地獄の釜みたいだ。

 生真面目でひたすら善なる町医者だがお酒ばかり飲んでいたり、悪事と暴力にまみれ社会悪のようなヤクザ者だが、そのぎらついたエネルギーは魅力的でもある。明らかな善と悪のような二項対立にしないで、濁った水たまりのなかで生きようとしている人々の苦しみと哀しみとそれでも生きるしかない姿を描いた『醉いどれ天使』のような混沌を『ブギウギ』は描けてはいない。いや、別に描こうとも思ってはいないのだろう。いまの時代を生きる人たちに向けた表現を模索した結果、スズ子をスター歌手としてキラキラさせるのではなく、いつまでたっても、ふつうの、むしろ不器用で生真面目な、たまたま歌手として祭り上げられてしまったかのような、でもとてもやさしい人物になったのだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー) 
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie

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