シャンタル・アケルマンの再来!? 『ゴースト・トロピック』が描く見えない“母”の日常

『ゴースト・トロピック』が描く“母”の日常

 本作がスポットライトを当てるのは、無視されがちな“母”の日常です。誰もいない夜のオフィスで清掃する主人公は、世間からは“見えない”存在と言えるでしょう。

 一方、主人公の娘はベルギーで生まれ育ち、夜に家を抜け出しては同年代の仲間と酒を飲んだり、恋愛を楽しんだりしている様子。親子といえど、生まれた国も母語も違う移民1世と2世のわかりあえなさを描いた作品には、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『マイエレメント』など傑作が多いですが、本作もその一つと言えます。「見知らぬどこか」からやってきて、必死に「家」を作り上げてきた彼女の苦労は、誰からも注目されることがありません。

 「シャンタル・アケルマンの再来」とも謳われるバス・ドゥヴォス監督は、社会の構造上、最も影が薄くなりがちな“母”の日常に徹底的に寄り添います。都心の夜を生きるブルーワーカーたちのさりげない優しさを受け取りながら、家を目指す主人公の淡々とした足取りに、自分の母や祖母を重ねたくなる映画でもありました。

■公開情報
『ゴースト・トロピック』
全国公開中
監督・脚本:バス・ドゥヴォス
撮影:グリム・ヴァンデケルクホフ
音楽:ブレヒト・アミール
音響:ボリス・デバッケレ
出演:サーディア・ベンタイブ、マイケ・ネーヴィレ、ノーラ・ダリ、シュテファン・ゴタ、セドリック・ルヴエゾ
配給:サニーフィルム
2019/ベルギー/フランス語/84分/DCP(16mm撮影)/カラー/スタンダード(1.33:1)/PG12/日本語字幕:手束紀子
©︎Quetzalcoatl, 10.80 films, Minds Meet production

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