小雪が『ブギウギ』に刻みつける底知れない力 物語の中心に存在し続けてきた2つの表情

小雪が『ブギウギ』に刻みつける底知れない力

 戦争で社会の状況が変化したことなどもあって、スズ子と愛助は生活をともにすることが許された。しかし、スズ子が歌手をやめないかぎり、結婚ばかりは許されない。後者に関しては“村山興業社長”としての当然といえば当然の態度であり、前者に関しては愛する息子の願いを聞き入れてやろうという“母親”としての態度だ。こうしてスズ子と愛助の関係性が少しずつ変化するたびに、トミは異なる表情を見せてきた。

 趣里と水上という若いふたりの演技を牽制しては跳ね除け、またあるときには受け入れる。こうした小雪のポジショニングとはたらきによって、ここしばらくの『ブギウギ』はとくに、緩急のある作品であり続けてきた。要所要所でしか登場しない“トミ=小雪”は物語の背後に存在しながら、絶えず中心にも存在し続けてきたのである。

 先述しているように、初登場時のトミからは、声を荒立てたりなど感情的になる姿は想像ができなかった。しかし、実際にはその想像を何度も覆してきた。いまでは“村山興業社長”としても、“愛助の母親”としても、彼女は追い詰められている。厳しい世界を生き抜いてきた女社長としての矜持と、ひとり息子の幸せを願う母親の愛とのはざまで揺れている。

 彼女がスズ子の前で優しい素振りを見せることは決してない。屹然と佇む大社長だ。けれども愛助だけの前では違う。その眼差しは慈愛に満ち、いつも固く結ばれている口元も柔らかい。もちろん愛助に語りかける声だってそう。トミのそんな姿を目の当たりにした私たちは、社長らしく毅然とした態度で振舞わなければならないときの彼女の胸中までもを、誰もが推し量るだろう。

小雪の経験が『ブギウギ』にもたらす説得力 一本筋の通ったトミの“家族の在り方”とは

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の第17週となる「ほんまに離れとうない」が放送された。スズ子(趣里)と愛助(水上恒司)の結婚話、…

 小雪が生み出したトミは、厳格で心優しい。スズ子にとっては高くそびえ立つ山のような存在だが、愛助にとっては広くて深い海のような存在である。俳優・小雪のその底知れない力に、私たちはいま触れている。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー) 
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie

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