オスカーは『バービー』『オッペンハイマー』の決戦に? “最大のサプライズ”から考える

第96回アカデミー賞ノミネートから考察

 さて、最後に日本勢の健闘が期待される3部門について取り上げていこう。まず日本映画初のノミネートという偉大な快挙を成し遂げた視覚効果賞の『ゴジラ-1.0』。どうしたって最新の映像技術を駆使するハリウッドのハイバジェット映画が強いこの部門で、日本の技術が5本の指に入るということは、それだけでも圧倒的勝利である。これ以上多くを求めてはいけない気がしてしまうのだが、各地の批評家協会賞などの結果を見れば、受賞の可能性も充分にある。ハリウッド版ゴジラを手掛けたことのあるギャレス・エドワーズ監督の『ザ・クリエイター/創造者』がライバルというのも、おもしろい巡り合わせだ。

 批評家を中心に圧倒的な指示を集め、北米圏でも大ヒットを飛ばしている宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』は、長編アニメーション賞にノミネート。ゴールデングローブ賞のように久石譲の作曲賞ノミネートが叶わなかったのは残念ではあるが、宮﨑駿作品は『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『風立ちぬ』に続いて4度目の候補入りで、『千と千尋の神隠し』は受賞まで漕ぎ着けている。ハリウッドの大作と、その他の国の技術力が対等に戦うことができる数少ない部門であり、そういった意味で受賞結果に意外性がもたらされることも少なくはない。

『君たちはどう生きるか』©2023 Studio Ghibli

 この部門の傾向としては“続編映画”があまり強さを発揮できないことと、なんだかんだ言ってもディズニー映画が強いということの2点。前者でいえば、前作公開時にまだこの部門ができていなかったアードマンの『チキンラン/ナゲット大作戦』がよもやの落選。一方で過去にこの部門を受賞している作品の続編である『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は前作に負けない高評価で無事に候補入りを果たした。

 後者では興行面でスタートダッシュに失敗しながらじわじわ評価を伸ばしたディズニー/ピクサーの『マイ・エレメント』が無事に候補入り。ディズニー100年の記念作『ウィッシュ』は落選し、その併映短編の『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』も短編アニメ賞から候補落ちしている以上、ディズニーの貫禄を見せつける場がここになるという筋書きも考えられる。いずれにせよ、日本勢が絡んだ部門で一番“何が獲ってもおかしくない”楽しさがあることは間違いないだろう。

 そして、ドイツのヴィム・ヴェンダース監督がメガホンを取った役所広司主演の『PERFECT DAYS』が日本代表作品として国際長編映画賞にノミネートされている。日本映画のノミネートは『ドライブ・マイ・カー』以来2年ぶり15回目で、受賞は過去に2回(名誉賞時代を除く)。ちなみにヴェンダースも、長編ドキュメンタリー賞に3度ノミネートされているが、この国際長編映画賞(旧外国語映画賞)においては過去に3度ドイツ(もしくは西ドイツ)代表としてエントリーしているものの今回が初ノミネートとなる。

 数年前から賞の名前が変更されたことに伴って、それ以前と傾向ががらりと変わったのがこの部門の特徴だ。具体的に言えば、主要部門とのリンクが強くなったこと。名称変更前年の『ROMA/ローマ』が作品賞と監督賞にノミネートされ後者を受賞。初年度の『パラサイト 半地下の家族』は作品賞も監督賞も制し、続く『アナザーラウンド』は監督賞候補、『ドライブ・マイ・カー』は作品賞と監督賞候補、昨年の『西部戦線異状なし』も作品賞候補と、この部門以外の主要部門で受賞・ノミネートを果たすほどのポテンシャルを秘めた作品が、順当に主役を飾っている。

 つまり今年の場合は、作品賞と監督賞など5部門候補の『関心領域』が最も受賞に近いということだ。イギリス映画がこの部門にいるというのは少々意外かもしれないが、24年前にウェールズ語とイディッシュ語が用いられた『Solomon & Gaenor(原題)』が、31年前にウェールズ語の『Hedd wyn(原題)』がノミネートされている。ちなみにこの『関心領域』はドイツ語・ポーランド語・イディッシュ語の映画だ。もはや非英語圏の国であることや、使用される言語にもこだわらない部門となりつつある点はボーダーレスで好ましいが、昨年の『西部戦線異状なし』も今回の『関心領域』もアメリカ資本が入った作品。いずれ基準が見直されることになってもおかしくないだろう。

 第96回アカデミー賞の授賞式は、日本時間3月11日に行われる。

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