『ブギウギ』3つの楽曲が解放した“自由”の心 淡谷のり子の実体験は特別なエピソードに

『ブギウギ』3つの楽曲が解放した自由の心

 スズ子は、りつ子ほど、自分の歌に確たる信念は持っていない。幼い頃から歌が好きで、それを生業にしてきたけれど、そこに羽鳥やりつ子のような哲学は見えない。だが、彼女の歌は、聞く人を元気にする。病弱で自信のなかった愛助(水上恒司)はスズ子の歌に救われた。防空壕では、さかだった人々の心が収まった。

 富山・高岡では、六郎(黒崎煌代)と同じ南方で夫が戦死した未亡人・静枝(曾我廼家いろは)が、スズ子の歌を聞いて、感情を取り戻す。夫を亡くしてからの静枝は、辛さや哀しみを感じなくなっていた。お国のために戦って亡くなったのだから、それをネガティブにとらえてはいけないという強迫観念に陥り、心もカラダも強張らせていた。

 これは想像でしかないが、戦時中は、上から、お国のため、お国のため、と考えを強要されて、自分が本当は何を望んでいるか、わからなくなってしまった人たちも少なくなかったのではないだろうか。そんなとき、スズ子の歌を聞いて、静枝は夫の死を心から悲しむことができた。さらには、夫との楽しかったことを思い出して、表情が和らぐ。

 なにも泣いてはいけないということはなく、泣くことで心が楽になることもある。それをスズ子の歌は教えてくれた。りつ子の歌も、“別れ”という哀しみを思いきり歌い上げることで、聴衆の心の代弁になり、彼らを救ったのだろう。

 好きなことが自由にできないことだけが苦しいのではない。悲しみや辛さを自由に表明できないことこそ問題である。贅沢は敵だ、欲しがりません勝つまでは、と忍従を強いられ、耐えることを美徳にすることから、歌は人々を解放する。

 「別れのブルース」「大空の弟」「夜来香ラプソディ」は3曲とも羽鳥善一の曲である(史実では服部良一が作曲/編曲)。音楽は時勢も場所も関係なく“自由”であることを、この3曲で謳い上げた。まるで羽鳥善一歌合戦である。いや、「合戦」という言葉は『ブギウギ』にふさわしくない。音楽は、優劣を比べることなく、個人個人の自由を尊重するものであるという、大きな命題は、音楽番組の1コーナーでは収まりきれない。ドラマのなかで語られることで深く染み入ってくる。

 第15週以降、ドラマの後半戦は、戦後となる。ますます、スズ子たちの歌が民衆の感情に働きかけてくるはず。スズ子が歌い続ける意味が明確になってくるのはこれからだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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