『ブギウギ』が踏み込んだ芸能界の光と闇 現在と地続きとなる“戦後”の秀逸な描写も

 戦前・戦後の芸能界を描いた朝ドラは多数存在するが『ブギウギ』は芸能界のシステムの問題にも踏み込んでおり、ステージで華やかなパフォーマンスを行って夢を見せるスターも労働者にすぎず、会社組織の間で翻弄されるか弱い存在として描かれる。そして、この構造がひと回り大きくなると、戦時下の国策に翻弄され、表現の場を奪われていく表現者たちという構図になっていく。

 UGDが解散した後、スズ子は自分の楽団を立ち上げるが、ジャズという敵性音楽を歌うため、国家から睨まれており東京では歌うことができない。そのため、地方巡業や慰問を行い、南方歌謡の「アイレ可愛や」を歌うようになる。一方、出兵したスズ子の弟・六郎(黒崎煌代)は戦地で命を落とし、スズ子の熱烈なファンで、やがて交際することになる村山愛助(水上恒司)は体が弱く結核を患っている。スズ子は愛助に戦死した六郎の面影を見る。召集令状が来て喜ぶ六郎と、病弱ゆえに学徒出陣でも徴兵されないことに後ろめたさを感じている愛助の姿は表裏一体で、当時の若者にとって徴兵されることが一人前の男であることの証明だったことが理解できる。

 戦時下に入っても『ブギウギ』のトーンは明るいが、だからこそ、じわじわと悪化していく戦時下の様子がはっきりと浮かび上がる。戦争と朝ドラは切っても切り離せないものだが『ブギウギ』の戦時下の描写は、我々の日常との地続き感があり「気づいたらこうなっていた」という描き方だからこそ、背筋が寒くなる。

 物語は昨年の12月末で折り返し地点を迎えたが、第1話冒頭で描かれた戦後にたどり着くまでには、もう一山ありそうだ。おそらく1クール目で戦前を終わらせずに年末年始を跨いだのは、スズ子たちが置かれている困難が、私たちが現在直面している政治や芸能の混乱と地続きであることを作り手が示したいからだろう。歌と踊りに満ちた楽しい作品だが、背景にある戦前の影はかつてなく生々しく感じる朝ドラである。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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