『翔んで埼玉』続編にはコメディ離れした感動がある 滋賀県で育ったライターが熱弁
この作品を指して「今年ナンバー1」と述べたのには、もちろん理由がある。この作品、観てない方は単なる「悪ふざけの悪ノリ映画」だと思っているのではないか。その通り。単なる「悪ふざけの悪ノリ映画」だ。だが、大の大人が集まって、魂をこめてふざけ、命をかけて悪ノリしているのだ。
GACKTが、Xでこの作品についてつぶやいている。
最近、翔んで埼玉の事をよく聞かれるから、ちょっと書いてみるか。
想像もつかないだろうが、翔んで埼玉のロケは本当に過酷で現場も常にピリピリだった。
これは、一作目も今作も変わらない。監督がとにかく変な人で、笑わせる演技は絶対NG。…
— GACKT (@GACKT) December 2, 2023
「想像もつかないだろうが、翔んで埼玉のロケは本当に過酷で現場も常にピリピリだった。(略)監督がとにかく変な人で、笑わせる演技は絶対NG。ただただシリアスにコメディをするというなんとも奇天烈な撮影現場だ」
これは、質の高いコメディを作る現場として、100%正しい姿だと思う。演者がヘラヘラ半笑いで「こんな感じでゆる~く脱力してやってんのが面白いんでしょ? 多分」てなノリで、半分ぐらいの力で繰り広げるコメディには、1円の価値もない。
『のだめカンタービレ』(フジテレビ系)や映画『テルマエ・ロマエ』でもわかる通り、漫画原作のコメディを撮らせたら武内英樹監督の右に出る者はいない。その無骨なまでにストイックな姿勢から作られるコメディは、笑いを通り越して感動すら呼ぶ。
そのストイックさは、もちろん演者にも伝わる。GACKTや杏が、漫画からそのまま飛び出したようなカッコ「良すぎる」キャラを大真面目に振り切って演じているからこそ、その異様な世界観を笑うことができる。1作目の京本政樹(麗の父・埼玉デューク役)や麿赤児(麗の育ての親・西園寺宗十郎役)も、ちょっとどうかと思うぐらいに常軌を逸したカッコ良さだった。
この作品にコメディ離れした感動を覚えるもうひとつの理由を、壇ノ浦百美役・二階堂ふみが公式パンフで語っている。
「この作品のディスりはあくまでも手法であって、伝えたいのは『差別や断絶はこんなにも滑稽で馬鹿馬鹿しいんだよ』ということで。それがこの作品の大義名分であり、多分監督のやりたいことや描きたいことだと思うんです」(『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』公式パンフレットより)
自分たちの優位性を示すために、身近な別の対象を見下す。これは、人間にとって最も愚かな行為のひとつだ。
今まで生きてきた中で、少しでもそんな“抑圧”を感じたことがあるすべての方は、この作品を観てほしい。そして、滋賀県も案外いいところであることを、知ってほしい。
ただ、桔梗魁の言うように本当に風が吹いただけですぐ止まるJR湖西線は、もうちょっとがんばってほしい。
■公開情報
『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』
全国公開中
出演:GACKT、二階堂ふみ、杏、片岡愛之助ほか
原作:『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』魔夜峰央(宝島社)
監督:武内英樹
脚本:徳永友一
配給:東映
©︎2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
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