朝ドラ『ブギウギ』草彅剛が見せた音楽家としての矜持 スズ子は誰のために歌うのか?
音楽家として羽鳥が難しい状況に直面していることはたしかだ。出征した楽団員のパートに合わせて、アレンジを書き直すのは骨が折れる作業である。戦争遂行一色の空気に合わせて出せる曲も制限される。それでも羽鳥は屈しなかった。他の作家が軍歌を手がけたり、戦争協力を惜しまないなかで、あからさまに戦意高揚を意図する作風は避けた。「蘇州夜曲」はバラードであり、「湖畔の宿」のような「貧弱で女々しい」曲をあえて世に問う羽鳥には確固たる信念があった。羽鳥に作曲法を授けた師メッテルが国外退去となり、自身がこよなく愛するジャズが敵性音楽とされることへの反発もあっただろう。
軽快なスウィングを奏で、機嫌よく軽口を飛ばす羽鳥には音楽家としての矜持がある。同時に羽鳥はスズ子を唯一無二の歌い手であると考えてもいる。「楽器が足りないなら他の音で補えばいい」という言葉は、バンドサウンドはアレンジできるが、スズ子のような歌手は代わりが見つからないことを示唆していた。羽鳥のスズ子に対する要求レベルは高いが、それは期待の表れでもあり、低迷する梅丸楽劇団にとどまる理由の一つにスズ子の存在があったことは想像にかたくない。
どんな時でも「歌うんだよ」と語った羽鳥の願いもむなしく、梅丸楽劇団は終焉を迎えることになった。崩れそうな屋台骨を必死で支えてきた楽団員は互いを思いやる余裕もなくなっていた。スズ子にとっては歌う場所を失うことを意味する。梅吉を抱えて八方ふさがりのスズ子は活路を見出せるだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK