前作以上の困難に挑んだ『毒戦 BELIEVER 2』 敢闘賞は“メガネ姿のヤクザ”ハン・ヒョジュ

困難に挑んだ『毒戦 BELIEVER 2』

 「その意気やよし!」という企画がある。困難な戦いに果敢に挑む人は応援したくなるものだ。中島みゆきの「ファイト!」理論である。とはいえ、現実が残酷であることも忘れてはならない。そんなわけで『毒戦 BELIEVER 2』(2023年)は非常に微妙な作品に仕上がった。残念ながら、そうそううまい話はないものである。

 本作は『毒戦 BELIEVER』(2018年)の続編だ。この1作目は、香港が誇る巨匠ジョニー・トーが手掛けた傑作『ドラッグ・ウォー 毒戦』(2012年)のリメイクである。『ドラッグ・ウォー 毒戦』は、それまで香港で活躍していたトーさんが、中国大陸で撮影した映画なのだが……当時の大陸は、まだトーさんを受け入れる準備が整っていなかった。おまけにトーさんの作風は、善人も悪人も死ぬときは死ぬというドライすぎるもの。それは「警察こそが絶対正義」な大陸の規制と決して相容れないものだった。撮影中に、やんややんや言われてブチギレたトーさんは、逆ギレ気味に警察を血も涙もない正義の組織として描き切って、映画は伝説となったが、以後トーさんは大陸と距離を取った。

 そんないろいろとワケありの傑作をリメイクした『毒戦 BELIEVER』は、まさに「その意気やよし!」の映画だった。作り手たちは原作を「ハードボイルドの権化」とリスペクトしつつ、自分たちの持ち味で勝負を挑んだのである。「イ先生」なる謎の麻薬組織の長を執拗に追う刑事と、彼に協力する謎めいた青年の物語をウェット&ハッタリ全開で描いたのだ。次々と出て来る狂人たちに、炸裂するアクション。そして刑事と青年の、友情とも利害関係とも違う不可思議な絆と「真相はあなたの心の中に……」な結末もバッチリ決まった。原作とは全然違うけど、これはこれでと受け入れられる快作となったのだが……。

 その続編である本作は、さらなる困難に挑んだ。前作がイイ感じで終わっているのに、その続編である。おまけに困難は重なるもので、主要キャストも変わってしまった。1作目では明らかにならなかった謎がある、というアプローチで新たな物語を作り、そんな困難な状況に挑んだわけだが……やはり結果は厳しいものがあった。

 まず、そもそも最大の謎である「イ先生」に関するネタが前作で割れてしまっているので、どうしても盛り上がりに欠ける。前作があえて答えを提示せずに余韻を残して終わったので、本作の存在そのものが蛇足とは言わないまでも、「答え合わせ」にしかならず、野暮ったく感じた。何より監督の暴力人(ばいおれんちゅ)としての創意工夫が決定的に弱い。前作のようなキレのあるアクションはなく、中盤のジャングルの追跡劇では、今日日なかなかに厳しいCGが炸裂する。全体を通して慣れないことをやっている感が強かった。

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