『ブギウギ』は心の声に聴き入る朝ドラ 自由でホットな登場人物の前に立ちはだかる戦時下

『ブギウギ』は心の声に聴き入る朝ドラ

 朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)は、まるでミュージカルのようだと思う。特に歌手・笠置シヅ子をモデルとした、趣里演じるヒロイン・福来スズ子は、その全身からほとばしるエネルギーそのもので、歌を歌っているかのようで。

 例えば、第29話におけるスズ子(趣里)が、「笑う鬼」善一(草彅剛)への「殺意」を「ラッパと娘」の歌唱を通してぶつける場面。声がガラリと変わり、身体が勝手に動き出す。心が動くから身体が動き、身体の内側で燻っていた、言葉にならない思いが歌に宿って外側に溢れだす。それを受け止める善一とのセッションにより、ジャズになっていく姿を目の当たりにする。大阪時代の鈴子/スズ子(幼少期・澤井梨丘)もそうだった。将来の夢に悩む心の中のモヤモヤを、歌いたいという思いを、あるいは、大和礼子(蒼井優)、橘アオイ(翼和希)との唐突な別れのやりきれなさを、銭湯の湯船の中で、時に涙とともに、歌として吐き出していた。

 また、第33話において、初恋が儚くも破れ、細い月が夜空に煌めくその下を、喫茶店で流れていた「別れのブルース」の名残を抱えて1人歩くスズ子の場面と、第33話終盤から第34話冒頭にかけて、下宿先に戻ったスズ子が、なぜか彼女の部屋で新曲作りに夢中になっている善一と藤村(宮本亞門)を目の当たりにした後、彼らがそれぞれ彼女に「ダイナ」と呼びかけて去っていく一連の流れが、第35話でスズ子が劇場で歌う「センチメンタル・ダイナ」の劇中劇に重なること。

 さらに、同様の場面において、並行して描かれる、秋山(伊原六花)による、大阪に帰る列車の中のタップダンス。それは、劇場で歌い踊るスズ子とのセッションであるだけでなく、かつて大阪から上京する列車の中で、子供に向かってジャズを口ずさんで見せる善一の姿と重ねてみたら、「センチメンタル・ダイナ」の歌詞のように、恋のために危うく「歌も踊りも忘れ」かけたけれど、本来の自分らしい踊りを取り戻した彼女の新しい人生への希望に満ちた喜びの足踏みにも見えて、もっと楽しかったりする。

 『ブギウギ』は、そんなスズ子たちの渾身の歌と踊りを通して、心の声に聴き入るドラマだ。そして、スズ子の心の声は、まさに彼女のモデル・笠置シズコの代表曲「東京ブギウギ」のように、「ズキズキ」もあれば「ワクワク」もあって、それらが渾然一体になっていて、一面的でない。だから、面白い。

 それはスズ子の人生を取り巻く登場人物全員、物語全体にも言えることで、例えば、「昔、川に飛び込んだところをお父ちゃんが助けた」という、何やら過去に大きすぎる闇を抱えていそうなゴンベエ(宇野祥平)が、穏やかな微笑みを浮かべ、ただそこにいて人々に受け入れられている。時に銭湯から聞こえるスズ子の歌に失った過去の情景を重ね、時にどこからか桃を取り出し、時に六郎(黒崎煌代)に現代の「さかなクンのハコフグ帽」を模したような、カメの帽子を作ってやったりする。それだけで、全てを受け入れる銭湯という舞台装置が持つ懐の深さと、作品自体の大きさを感じて、思わず涙腺が緩む。

 脚本を手掛けるのは、映画『百円の恋』『喜劇 愛妻物語』、ドラマ『拾われた男』(ディズニープラス)の足立紳と、『あなたのブツが、ここに』(NHK総合)の櫻井剛。市井の人々への優しい眼差しが光る。

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