『リアリティ』の題材となった実際の事件を解説  恐ろしく“リアリティ”のあるスリラー映画

『リアリティ』で描かれる事件を解説 

 リアリティ・ウィナー。珍しい響きに聞こえるが、アメリカに住む、ごく平凡な一人の女性の名前である。彼女はペットの犬や猫をかわいがっていたり、冷蔵庫に『風の谷のナウシカ』のステッカーを貼っていたり、愛車がコンパクトカーのCUBEだったりするなど、われわれが親しみを感じられる部分をたくさん持っている。

 そんなリアリティは、米空軍に勤務していた元軍人でもある。彼女は名誉除隊後、外国語のスキルを活かしたいと考え、国家安全保障局(NSA)に契約社員として務めていた。だが25歳のとき、国家機密漏洩の罪でFBIに逮捕されることになる。彼女がメディアにリークしたとされる、その機密情報は、2017年当時のトランプ政権を揺るがすほどの衝撃的な内容だったのだ。

 本作『リアリティ』は、世界中を騒然とさせた国家機密漏洩事件における、実際の尋問音声をリアルタイムで一言一句再現した、恐ろしく“リアリティ”のあるスリラー映画だ。ここでは、そんな本作『リアリティ』の内容を紹介しながら、そこに何が表現されているのかを、できるだけ掘り下げていきたい。

 ゴルフのマスターズトーナメントがおこなわれることで知られる、アメリカ南部のジョージア州オーガスタ。リアリティ・ウィナーの住まいは、この自然に囲まれたのどかな街の住宅地にあった。2017年6月3日、彼女がいつものようにスーパーマーケットで買い物を終えて自宅に帰ってくると、家の前でFBI捜査官が待ち構えていた。

 捜査官たちはフレンドリーな態度で、にこやかにリアリティに話しかける。「君の家にきたのは、捜索令状があるからなんだ。心当たりはあるかな?」リアリティが「全くありません」と答えると、「機密情報の扱いを誤ったのでは?」と探りを入れてくる。

 ここから、リアリティと捜査官たちとの緊迫感あるやりとりが始まっていく。実際に交わされた内容であるだけに、これ以上ないほどの臨場感だ。捜査官はあくまで紳士的な口調を乱さずに、ペットの話題だとか、ジムでのトレーニングの話題など、どうでもいい世間話を交えながら会話を続けていく。対するリアリティも、できる限り冷静に友好的な態度で答えていく。

 だが、もちろんこの会話の水面下では、熾烈な心理的駆け引きが展開されている。捜査官はやりとりのなかでリアリティの主張の矛盾点や失言を引き出そうとしているし、リアリティの方でも疑念を払拭することを意図して、できるだけ余裕を見せようとしている。なるほど、現実の捜査というものは、多くの劇映画のようにスピーディーに進んでいくものではないことが理解できる。

 とはいえ、リアリティは一人の平凡な女性に過ぎない。次第に高圧的になっていく複数の男性たちの尋問に追いつめられていくのである。観客は、そんな彼女の感じる恐怖や心理的ストレスを、本作でリアルに追体験できるのだ。

 リアリティ・ウィナーを演じているのは、『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018年)や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)などでキャリアを積み、ドラマシリーズ『ユーフォリア/EUPHORIA』でブレイクを果たしたシドニー・スウィーニー。不安と恐怖にさいなまれながら気丈に自分を保とうとする、複雑で難度の高い演技を見事にこなしている。

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