『進撃の巨人』ミカサはなぜ“もう一人の主人公”に? 不変の愛を持つヒロイン性を解説
物語の中で、強さと脆さが交錯する瞬間は、しばしば心を揺さぶるものだ。『進撃の巨人』では、これらが特にミカサ・アッカーマンを通じて表現されている。シリーズのラストを飾る『「進撃の巨人」The Final Season 完結編(後編)』では、ミカサの内面の複雑さと成長が深く描かれ、エレンとの深い絆と彼女自身の運命が見事に交差した。ミカサはどのようにして『進撃の巨人』の中心的なヒロインに成長し、視聴者に深い印象を残したのか。物語の重要な局面と共に振り返ってみよう。
幼なじみである主人公・エレンに対するミカサの深い執着は、9歳のときに両親を失い、エレンに救われた過去の出来事に起因している。シリーズ後半では、ミカサがアッカーマン一族の血を引いており、常人を超える力を持つこと、そして東洋人としての特別な伝承を背負っていることが明らかになり、ある意味ではエレンから独立した「ミカサ自身の物語」が展開された。
物語のクライマックスでは、エレンが「地鳴らし」を発動し、世界を恐怖に陥れる。この中で、ミカサは彼を止めるために決死の行動を起こす。描かれるのは、巨人化したエレンと対峙し、思い出を胸に彼の首を切り落とす衝撃的なシーンだ。この行動は、ミカサが自らの使命感と葛藤を乗り越えた瞬間であり、彼女の心の成長を示しているとも言える。また最終的に、エレンの首にキスをするミカサの姿は、彼女の複雑な感情と変わらないエレンへの深い愛を象徴しているのではないだろうか。
シリーズを振り返ると『「進撃の巨人」The Final Season 完結編(後編)』に至るまでに、ミカサはすでに戦うヒロインとしての像を確立していた。しかし、本作でのエレンの「死後」の描写は、ミカサを本作の真のヒロインとして位置づける上で非常に重要な役割を果たしていたように思う。エレンの石碑には、
「サイアイノ アナタ ココデトワニ イネムリニツク」
という言葉が刻まれていた。この「イネムリ」という言葉は、アニメ第1話で、同じ木の根元で眠っていたエレンをミカサが起こしたシーンを思い起こさせる。この表現は、過去の思い出を反映しているだけでなく、ミカサにとって、エレンがいつか「眠りから覚めるように」という希望を込めたメッセージだったのかもしれない。
『「進撃の巨人」The Final Season 完結編(後編)』のエンドロールでは、時の移ろいが音楽に息づいており、ここでもミカサのヒロイン性が際立つ演出が見られた。
Linked Horizonは、「紅蓮の弓矢」をはじめとする数々の名曲を通じて、登場人物たちの心情を音楽で表現してきた。『進撃の巨人』楽曲シリーズの集大成である「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ・・・」は、物語の終わりを飾りながら、過ぎ去る日々の感慨を見事に捉えていた。
この楽曲では、ミカサ役の石川由依とエレン役の梶裕貴が切ない歌い出しとハーモニーを披露し、続いてRevoがパートを受け継ぐ。そしてこれは、ミカサとエレンが共に過ごした時間の後、ミカサが独り歌い、そしてミカサのいない未来を別の第三者が歌うとも捉えられる演出でもある。アニメの映像と相まって、“二万年後の君”がミカサの子孫とも捉えられるような、なんとも粋な終わりの演出だったのではないか。