朝ドラ『ブギウギ』が提示するエンタメの力 リアリティの中にある“寓話”の不思議な味わい

『ブギウギ』が提示するエンタメの力

 USKの世界は歌や踊りがいっぱいの夢のような世界である。一度、幸子が、衣裳の羽を忘れてきて、橘アオイ(翼和希)が羽なしで踊る羽目になった。そのとき橘が大激怒。幸子ひとりの責任ではなく連帯責任だと、鈴子たちもとばっちりをくらった。でもそれは、お客様がひととき、現実を忘れて楽しむ場所だから、現実に立ち戻らせたらいけないという思いからだと、大和礼子(蒼井優)から鈴子は聞かされる。

 その後、礼子は、鈴子のデビュー公演でメイクをしてあげながら、お客さんは劇場に「生きる力をもらいにくる」のだとも言う。

 『ブキウギ』には「エンタメの力を改めて提示する」というテーマもある。エンタメにはひととき現実を忘れさせ、生きる力を与える力があるのだ。理屈抜きで夢のような世界に羽ばたくことができるのがエンタメ。季節外れの桃が手に入って病気がすっかり治ったり、人間だけどカッパやクジラが親だったり、想像力に妄想力はいくらあっても誰にも否定されることはない。楽しいことを想像して笑うことはなんて幸福なことだろう。もちろん現実はつらい。せちがらい。無理してがんばって生きていくために労働したり、いやな人と応対したりすることからは逃れることはできない。けれど、ほんのひととき、劇場に足を運び、思いがけない世界に浸って笑顔になって(悲劇に大泣きするのでもいい)、また明日からがんばろうと現実に戻る。花田家の銭湯・はな湯もまた、老若男女が集まってからだの汚れや疲れを落としおしゃべりして和むある種のエンタメの場である。

 芸名の「福来」は、ツヤが「笑う門には福来たる」からとったもので、これ以上の芸名はない。銭湯育ちで歌劇団に入った福来スズ子は、エンタメの申し子なのだ。

 ゴンベエがなぜ、桃を手に入れたのか。ツヤが聞くと答えは「記憶にございません」。エンタメのひとつである落語のようなオチも最高にセンスがよかった。たぶん、桃の出処にもっともらしい理由がついたら野暮だろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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