『らんまん』神木隆之介と浜辺美波の歩みは最終章へ 曲亭馬琴と重なる伝えたいという思い
震災から1カ月。市内から移ってきた人々で渋谷はごった返していた。『らんまん』(NHK総合)第125話は、がれきの下から立ち上がる生命の営みの強さを示した。
かろうじて命は助かった万太郎(神木隆之介)一家だったが、根津の十徳長屋にあった標本や原稿は大きな被害を受けた。落胆のあまり立ち直ることは難しいと思われた万太郎は、新たに図譜執筆の筆を執っていた。「原稿はおおかた燃えてしもうた。けんどまあ、ひとまず一から始めてみよう思うて」。折れることのない万太郎の姿に、寿恵子(浜辺美波)は胸を打たれる。思わず「どうしてできるんですか? こんなことになって」と本音が口をついて出た。
焼け跡で見たムラサキカタバミ。誰もが一度は目にしたことがある雑草の代表格だ。万太郎は「人の世で何があっても、植物はたくましい」と言ってほほ笑む。寿恵子にとって、誰よりも身近で見続けてきた万太郎の奥深さを、この時ほど強烈に感じたことはなかったのではないか。人生の一書である『南総里見八犬伝』を著した曲亭馬琴を引き合いに出しながら、偉業を遂げるのはどんな人間かを語る。
馬琴は目が見えなくなってから『八犬伝』を完成させた。寿恵子は、馬琴を偉くて遠い存在であると尊敬の念を込めて慕ってきた。他人から見れば、万太郎も馬琴と同じかもしれない。全国を行脚し、誰もなしえなかった植物図鑑完成へまい進する不屈のバイタリティーを、天才のなしえる技として、自身からかけ離れた存在と捉えることは可能だ。しかし、寿恵子は万太郎に異なる感慨を抱く。「あなたは特別だから書けて当たり前って、そう思いたくないんです」と伝える言葉の端々から、植物に無上の愛を注ぐ一人の男に共感し、人生をかけて支えた寿恵子の、愛情としか呼びようのない思いがこぼれ出ていた。