『18/40』は登場人物たちの“卒業”を描く 福原遥と深田恭子の“幸せ”の証

『18/40』が描く登場人物たちの卒業

「だから私たち、少し前に進んでみようか」

 前に進むというのは、今いる環境から一歩踏み出すということ。そこがどんなに居心地のいい場所であっても、逆に長年苦しい思いをしながらも諦めきれずに居続けた場所であっても……。「人生の選択」とも呼べる、今いる場所からの卒業。火曜ドラマ『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系)は、改めて登場人物たちの“卒業”を描くドラマだったのだと気づかされた。

 「卒業」という明確な言葉を使ったのは、瞳子(深田恭子)の親友であり、有栖(福原遥)の主治医でもある産婦人科医の薫(松本若菜)だった。彼女は32歳から8年間、密かに不妊治療に取り組んでいた。女性の体に大きな負担のかかる不妊治療を続けながら、2000人もの赤ちゃんを取り上げてきた薫。ようやく授かったと思ったら流産してしまい、打ちひしがれたこともあったと、涙ながらに話す姿に胸が押しつぶされそうになった。

 一体どれほど心に鎧をまとって、命の誕生に向き合ってきたのだろうか。自分自身の妊娠を強く望みながらも、有栖のように予期せぬ妊娠で悩む女性たちに対面し、まっすぐにその選択を見守ってきた。大の親友である瞳子にさえ気づかれないほど、気丈に振る舞ってきた薫には頭が下がるばかり。だが、現実社会でも薫と同じように同じように周囲に悟られまいと苦しい治療を続けている女性はたくさんいる。瞳子と涙を流した翌日も「はい、先生頑張ります!」と患者家族に笑顔を向けていたように。

 不妊治療を卒業し、子どもを授かる夢をきっぱり諦めることにした薫。瞳子に肩を預け、ボロボロと溢れる涙を止めることができない。それでも、彼女の口から出てきた言葉は「私、幸せだね」だった。彼女が子どもを諦めるという選択ができたのは、きっとこの先もずっと寄り添ってくれる夫との愛を確信しているから。そして、こうして一緒に泣いてくれる親友がいて、打ち込める好きな仕事があるから。「卒業」と聞くと何かを手放すことばかりに意識がいくが、卒業とはそれを決断できるだけの幸せをすでに手にしているのだと実感できる瞬間なのかもしれない。

 祐馬(鈴鹿央士)が再びダンサーの夢を追いかけることを決断したのもそうだ。そもそも祐馬が有栖に惹かれたのは、有栖がどんな状況にも負けずに夢を追いかけ続ける姿に心を動かされたから。裏を返せば、祐馬はどうしても叶えたい自分像を持てていないコンプレックスがあったのかもしれない。小さい頃から汚れる前に新しい靴を買い与えられていた社長息子の祐馬。彼が汚れた靴を誇らしげに感じているところから見ると、ダンスも父親の祐一(髙嶋政宏)の敷いたレールから外れたいという意思表示の一つに過ぎなかったように見える。

 だが、今はどんな自分になりたいのかが明確にある。夢を追いかける有栖を支え、そして有栖と同じくらい夢に向かって輝く自分になりたい。同時に、父がどれほどの思いで夢を叶えて今の地位を築いてきたのかもわかるようになった。その尊敬の気持ちをにじませる息子が差し出した退職届に、きっと祐一も祐馬の成長を感じたに違いない。父もまた、子を自分の思い通りにしようという執着から卒業するときだと悟ったのではないだろうか。

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