『SAND LAND』愛らしさをまとったキャラの魅力 手書きのアニメ化は3DCGが正解?
幻の水源を求めてベルゼブブと旅をする初老の保安官・ラオのキャラクターも同様に、観客のハートをがっちりつかんで離さない。こういう「味のあるおっさん」をここまでストーリーの中心に据えたエンターテインメントが、近年この国にあっただろうか? と感動を覚えてしまう。銃や戦車を使った鳥山明好みのアクションは彼が一手に引き受け、実にかっこいい。声優・山路和弘の渋い魅力が全編たっぷり味わえるという嬉しさも、もちろんある。親子ほど年の離れた少年悪魔ベルゼブブと、そのお目付け役シーフ(チョーさん、名演!)との掛け合いがメインとなるので、余計なラブストーリーなどが絡まないところもいい。
広大な砂漠を舞台にしたロードムービー風のストーリーと、個性豊かなキャラクターたちのアンサンブルは、鳥山明の原点回帰を見るような楽しさに満ちている。原作は2000年発表ながら、こうして映像化されると『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)と同じ匂いがしてくるのも面白い。そんなシンプルな世界観だからこそ、3DCGアニメーションという表現形態が見事に合致していたと言えるし、ダイナミックな遊びや実験も可能になったと言えよう。神風動画生え抜きの俊英・横嶋俊久監督の力量が存分に発揮された長編デビュー作としても、アニメファンはぜひ観ておいたほうがいい一作だ。
いま、手描きの漫画原作の魅力を損なわずにアニメーションで再現したいと思うなら、いっそ3DCGに舵を切ったほうが正解というケースも、実は少なくないのかもしれない……そんな思いを『ドロヘドロ』(2020年)以来、久々に抱かせてもらった快作だった。一方で「これぞ手描きでしか到達しえない境地!」と心底驚かせてくれるのが、10月20日公開の板津匡覧監督作『北極百貨店のコンシェルジュさん』なのだが、それはまた別の話。
■公開情報
『SAND LAND』
全国東宝系にて公開中
キャスト:田村睦心、山路和弘、チョー、鶴岡聡、飛田展男、大塚明夫、茶風林、杉田智和、遊佐浩二、吉野裕行、こばたけまさふみ
監督:横嶋俊久
脚本:森ハヤシ
ディレクションアドバイザー : 神志那弘志
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:サンライズ、神風動画、ANIMA
配給:東宝
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