AppleTV+『ハイジャック』『窓際のスパイ』などの“娯楽作”にみる、テレビシリーズの醍醐味

『ハイジャック』などAppleTV+に注目

 ストリーミングバブルが弾け、プラットフォーマーがオリジナルコンテンツ製作の選択と集中を迫られている中、AppleTV+のラインナップを見渡せばTVシリーズの魅力を“肩の凝らなさ”にこそ見出していると思えなくもない。2022年に初登場し、今年シーズン3がリリースされる『窓際のスパイ』はそんなAppleTV+の本命打。1年間にシーズン1、2を連続配信する力の入れようで、最終回には早くも次シーズンの予告編がアタッチされていた。膨大なエピソード数に付き合わなくてはいけないのかと怯んでしまうかもしれないが、ご安心を。1シーズン全6話で、メインストーリーはシーズンごとの完結。何より『窓際のスパイ』はサスペンスとユーモアの塩梅が絶妙な娯楽作だ。

『窓際のスパイ』写真提供:AppleTV+

 ジェームズ・ボンドでおなじみMI-6が海外での諜報活動を担当するのに対し、MI-5は国内保安を任務とする組織。様々な理由から落ちこぼれ、出世街道から外れたスパイたちが“スラウ・ハウス(泥沼の家)”と呼ばれる別館勤務に送られる。いわゆる“追い出し部屋”。ほとんど物置小屋のような建物で、回されてくるのは膨大な紙資料からの情報収集といった雑用ばかり。そんな窓際族を管理するのが、ゲイリー・オールドマン演じるジャクソン・ラム。オールドマンといえばスパイ小説の大家ジョン・ル・カレ原作『裏切りのサーカス』で、アイコニックなスパイ、ジョージ・スマイリーを演じて自身初のオスカーノミネートを勝ち取った。没個性的で紳士的なスマイリーとジャクソン・ラムは対称的。髪はギトギト、服はヨレヨレ。昼間から自席で酒を飲み、人前での放屁もお構いなし。口を開けば想像を絶する口の悪さで窓際族の部下たちをこき下ろす。しかし、彼こそが冷戦時代を生き延びた伝説のスパイなのだ。オールドマンはタヌキ親父を嬉々として演じ、とにかく可笑しい。

『窓際のスパイ』写真提供:AppleTV+

 スパイものらしくシーズン1では極右集団、シーズン2では旧ソ連のスパイが敵に設定される時事性があるものの、本作も複雑なコンテクストは一切なし。絶妙なキャラクター描写と俳優陣のアンサンブル、クリフハンガーの上手さで、大事件に挑む窓際スパイたちの奮闘に手に汗握ってしまう。90年代のイギリス映画を観てきた視聴者ならオールドマンに加え、クリスティン・スコット・トーマスや、初老の工作員スタンディッシュに扮したバイプレーヤー、サスキア・リーヴスの渋みも嬉しいところ。シーズン1には『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の演技派オリヴィア・クックも出演している。そしてスパイドラマ史上最強のドジっ子と言っても過言ではない、主人公リバーを演じるジャック・ロウデンのチャーミングさといったら!

 『ハイジャック』『窓際のスパイ』も既にシーズン完結しているためビンジウォッチが可能だが、AppleTV+は1週間に1話ずつの配信が基本スタンス。毎週決まった曜日にTVドラマを楽しむという原初的な醍醐味を意外やAppleが甦らせてくれたのは嬉しい驚きだ。AppleTV+は今年、マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』やリドリー・スコット監督、ホアキン・フェニックス主演『ナポレオン』といった超大作映画が待機しており、初めての加入を検討している人も多いはず。これを機会に厳選されたラインナップを手に取ってみてもらいたい。

■配信情報
『ハイジャック』
AppleTV+にて配信中
出演:イドリス・エルバ、ニール・マスケル、イヴ・マイルズ
写真提供:AppleTV+

『窓際のスパイ』
AppleTV+にて配信中
出演:ゲイリー・オールドマン、ジャック・ロウデン、クリスティン・スコット・トーマス
写真提供:AppleTV+

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