『らんまん』佐久間由衣を支える志尊淳の“ひそかな愛” 2組の夫婦の明るい再出発を願って
「綾さん。あなたは峰屋最後の蔵元じゃ。目はつむったらいかん。最後まで見届けや」
綾(佐久間由衣)を見つめる竹雄(志尊淳)の目は、万太郎(神木隆之介)のロシア行きを後押しした寿恵子(浜辺美波)の目によく似ていた。そこに滲むのは、冒険の並走者としての揺るぎない覚悟である。
万太郎が田邊教授(要潤)から破門を言い渡されるシビアな展開で幕を開けた『らんまん』(NHK総合)第18週。これまで順調に植物学者としての道を進んできた万太郎は、冒険でいえば、一番の難所に差しかかっている。大学にある標本や文献を使用できないとなれば、研究や図鑑作りもままならない。さすがの万太郎も心が折れかかった時、希望の光を灯したのは寿恵子だ。
経済的に楽ではない中、2人目の子どもを抱えながら家計のやりくりや長女・園子の子育てに邁進する寿恵子。そんなただでさえ大変な状況にあって、マキシモヴィッチ博士がいるロシアに留学がしたいという万太郎の申し出に理解を示した。それどころか、「どうしよう、本当に大冒険だ」と彼女自身もまだ見ぬ世界に心を震わせる。「病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も」。結婚の誓いをこれほどまでに体現した夫婦の姿があっただろうか。
事実は小説よりも奇なりと言われるように、万太郎がたどる植物学者・牧野富太郎の人生は波乱に満ちている。特に植物学教室を追われた後から、牧野博士はさまざまな困難に直面することに。その一つが、第89話でも描かれたように実家である酒蔵の廃業。作中では火落ち(※菌の繁殖で日本酒が腐ること)が原因で経営が立ち行かなくなり、苦渋の末に綾と竹雄は峰屋を畳むこととなる。
空っぽになった蔵に足を踏み入れた綾の慟哭は、あまりにも辛かった。子どもの頃、綾は女人禁制の蔵に入って酷く叱られたことがある。だけど、今の綾を咎める者はもういない。以前は聞こえた酒が滴り落ちる音もない無音の状態が、酒蔵の神様がもう消えてしまったことを告げていた。誰よりも峰屋の酒を愛し、「酒蔵の神様はおなごを嫌う」という古い価値観に立ち向かってきた綾。彼女をずっとそばで見守り続けてきた竹雄の心痛はいかばかりか。