『連続ドラマW 両刃の斧』は柴田恭兵の最高傑作に 井浦新が明かした最終話の撮影裏話
「刑事役と言えばこの人」というイメージが強いベテラン俳優は、水谷豊、舘ひろし、柴田恭兵が御三家ではないだろうか。柴田は連続ドラマ初レギュラーとなった『大追跡』(日本テレビ系/1978年)から、舘とコンビを組んだ“あぶデカ”こと『あぶない刑事』シリーズ(日本テレビ系)までコミカルな演技の印象が強いが、シリアスなサスペンス作品でも刑事役を熱演し演技の幅を見せてきた。
その最新作が大門剛明の同名小説を映像化した『連続ドラマW 両刃の斧』だ。井浦新とのW主演で、2人の娘を失うという悲劇に見舞われた元刑事の柴崎佐千夫を演じている。
柴崎は県警捜査一課の刑事だった。家庭では心優しい妻・三輪子(風吹ジュン)と2人の娘に恵まれ幸せに暮らしていたが、23歳で一人暮らしを始めた長女・曜子(見上愛)がアパートの中で血だらけの死体となって見つかる。目撃証言から、長女の部屋から出てきた「ラクダ顔の男」が犯人と目されるが身元はわからず、事件は未解決に。その後、次女・和可菜(長澤樹)もわずか17歳で病死してしまう。失意の中でも、柴崎と妻は気丈に生きていくが、ついに三輪子も病に倒れて入院。曜子の死から15年後、警察を定年退職した柴崎の元に、曜子の事件が再捜査されるという知らせが入る。
井浦が演じるのは柴崎にあこがれて刑事になった川澄成克。柴崎とは、妻・多映子(高岡早紀)、一人娘の日葵(奈緒)と共に家族ぐるみで付き合ってきた。それだけに曜子の悲劇を我がことのように感じて心を痛め、彼女を殺した犯人を捕まえたいという思いで再捜査チームに入るが、いざ「ラクダ顔の男」の正体が判明しても、退職した柴崎に情報を渡すわけにはいかず、川澄は苦悩する。
柴崎と川澄は警察組織ならではの強い仲間意識で結ばれ、まるで父と子、または教師と生徒のような関係でもある。しかし、「ラクダ顔の男」をめぐって柴崎が容疑者となり、古巣の警察から追われることになってしまう。川澄は激しく動揺しつつ、逃走する柴崎に「出てきてほしい」と切実に訴える。井浦は、柴崎への恩義と刑事としての使命で板挟みになる川澄をずっと苦しそうな表情で、しかし、その苦しさの中でも微妙なグラデーションをつけて丁寧に演じている。
そして、柴田は、ふだんは辛い過去を感じさせない態度で前向きに生きているように見えるが、心の奥底に娘を奪った犯人への復讐心を秘めている柴崎を、役柄そのものにしか見えない迫真の演技で体現している。長女の遺体と対面したときや、犯罪被害者支援センターの会に参加し、初めて「犯人を殺してやりたい」という気持ちを吐露する場面で、人間味あふれる演技を見せ、見ているこちらも号泣必至。「こんなにすごい演技をする人だったんだな」と改めて思い知らされる。2023年8月で72歳になる柴田だが、このドラマは現時点での彼の最高傑作と言えるかもしれない。