『らんまん』“厳しい現実”はどう描かれる? 後半のポイントを制作統括に聞く
万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)に一人娘・園子が誕生し、新たな展開へと突入している連続テレビ小説『らんまん』。構成の巧さには舌を巻くばかりで、回を重ねるごとに面白さは増し続けている。制作統括の松川博敬氏にここまでの手応えと後半戦のポイントについて話を聞いた。
万太郎(神木隆之介)は“広場”に集まる人々
――第16週「コオロギラン」第78回で、万太郎(神木隆之介)が寿恵子(浜辺美波)の頬にキスをするシーンは微笑ましかったです。
松川博敬(以下、松川):私もあのシーンはすごく好きで、台本のト書上にも「口づけをする」という記載があります。『らんまん』は展開が早くて、そこが脚本の長田(育恵)さんの持ち味であり、視聴者のみなさんも評価してくれているんですけど、あのシーンだけは夫婦の幸せな日常、ゆっくりとした時間が流れていて。一緒に石版印刷を刷って、それを干して、寝そべりながら、ヤマザクラの絵を見ている2人の空気感が素晴らしいんですよね。白の衣装も似合っていて、そこに風が吹き抜けるという、文学的な情景が描かれていて、最後にチュッとするという珠玉のシーンだと思います。第12週〜第13週の新婚時代に比べて、大人な円熟味のある夫婦を2人が上手く表現してくれています。
――長屋の面々もしっかりとしたバックグラウンドが描かれていて、一人ひとりが魅力的に感じられます。
松川:キーワードとして長田さんが言っていたのは「広場」みたいなイメージでした。槙野万太郎という「広場」に集まった人たちという、当初の企画があった中で長屋が一番その「広場」を自由に描けるんじゃないかとおっしゃっていて。それぞれの事情を抱えた長屋の面々が万太郎という「広場」に集まってくる。長屋も思っていたよりいることになったなと思っています。当初は結婚したら出ていくのかなくらいの話だったんですけど、結局そのままいることになりました。今後、第20週で長屋のメンバーは出ていくことになるんですけど、万太郎は長屋の部屋を自分の研究室にして拡大していきます。便利な場所になったなと思いますし、キャラクターもそれぞれ見せ場がある分、予想以上に伸びていると感じています。
――魅力的なキャラクターというのは長田さんの脚本時点からすでに描かれているものなのでしょうか?
松川:史実はあるのですが、キャラクターが予想以上に膨らんでいるのは確かです。キャスティングによってさらに長田さんを刺激しているのかもしれないですね。波多野(前原滉)、藤丸(前原瑞樹)、丈之助(山脇辰哉)とか。キャラとして成長していっているのは、芝居をしている役者さんを見ているからじゃないですかね。野宮を演じてもらっている亀田佳明さんは、長田さんから直々に会ってほしいと言われ、長田さんのお気に入りの役者さんなんだろうなと思います。
――要潤さん演じる田邊教授の今後についても教えてください。
松川:田邊にのモデルとしている人物は牧野富太郎さんの伝記では悪役として描かれている人なんです。最初は可愛がっていたのに富太郎さんをクビにする。でも、調べていくと、どうやらそうじゃないみたいで、人によってはむしろ富太郎さんの方がやりたい放題やっていて、田邊のモデルの方が真っ当であるというか、人間にはいろんな面があって、田邊には田邊なりの熱狂がある。そこは今後描かれていくので、今は“悪役”だと思われているとしたら汚名返上していくところがありつつ。誰も悪くはないんだけど、出会ってしまった運命というか、勧善懲悪ではない、複雑な人間模様に展開していきます。