『風、薫る』第19週は“パンデミック”と向き合う展開に 現実と重なる社会不安を描く

『風、薫る』パンデミックと向き合う展開に

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第91話では、新潟の村で赤痢が発生。りん(一ノ瀬りん)は医師の黒川(平埜生成)に看護婦として現地に同行してほしいと頼まれる。

 黒川の説明によれば、最初の感染者が出たのは1週間前で、すでに死者が数名確認されているとのこと。まさに一刻を争う状況だ。まだ患者に触れる自信がないりんは一度は断ったものの、すぐに思い直し、黒川の後を追う。りんの背中を後押ししたのは、かつてバーンズ(エマ・ハワード)が看護婦見習生たちにかけた言葉だった。

「あなたたちの手は家族の数百、数千倍の人を助ける手なんです。あなたが看護婦になれば、家族を失い、あなたと同じ思いをする人を減らすことができます」

 コレラに罹患した父・信右衛門(北村一輝)に何もできず、一人で死なせてしまった後悔がりんを看護の道に進ませた。もう、あのときの無力な少女はいない。看護婦の仕事は離れてしまったが、バーンズから教わった知識も病院で培った経験も、りんの手の中にある。なのに、ここで怖気づいて自分が救えるかもしれない命に背を向けてしまったら、一体何のために看護婦を目指したのか。何よりきっとまた「間違えた」という思いを背負って生きていくことになる。原点に立ち返ったりんの目の奥に、静かな闘志が宿ったように見えた。

 黒川と合流したりんは村を目指し、大きな荷車を押しながら険しい道を進む。道中、助けを求めてきた長太郎(渋谷そらじ)という少年についていくと、家の前で大人たちが何やら言い争っていた。どうやら長太郎の家は感染者が出たという疑いをかけられてるようで、父・太助(板橋駿谷)が、確認にやってきた役人や、騒ぎを聞きつけて集まってきた村人たちを必死で追っ払っていた。

 村へ着く前に「重症の方が多いかもしれません。伝染病は隠したがるものだから」と黒川に話していたりん。自身の経験から基づくその予想は悲しいことに的中する。家の中に入ると、長太郎の母・アサ(美山加恋)が布団の上でうずくまっており、すでにかなり赤痢が進行している様子だった。黒川はまずは感染を断つためにアサを避病院に連れていこうとするが、太助は反対する。その理由は家の外から聞こえてくる村人の言葉ですぐにわかった。
 
「おめえんとこ、出たんだか?」
「そんで医者なんか、連れ込んだんだか」
「そいつらが毒まいてんだ」
「避病院なんかに連れていこんだら、ろくなことにならんど!」

 りんの故郷でコレラが発生したときと同じだ。いや、私たちがコロナ禍に目の当たりにした光景でもある。パンデミックが起きたとき、人間は正体のわからないウイルスへの強い恐怖心から仮想敵を作り出し、それを非難することで溜飲を下げようとしたり、原因を特定できたと思い込むことで安心感を得ようとする。その結果、感染者や医療従事者への差別、根拠のない噂やデマが広がり、次第に社会は疑心暗鬼に包まれていくのだ。太助もきっと病そのものより、感染者を出した家という烙印を押され、村社会から排斥されることを恐れているのだろう。

 そんな太助に「私のせいにすればいいがね」と寄り添ったのは黒川だ。自ら盾になり、家族を守ろうとするその姿勢が、誰のことも信じられなくなっている太助の警戒心を静かに溶かす。一方、長太郎の「おっかぁ、助かる?」という言葉に、りんは「絶対に助かる」と返すことはできなかった。命は時に残酷なほど呆気なく失われていくことを、知っているからだ。それでも、かつての自分と同じく不安に包まれた長太郎を少しでも安心させようと「またここに戻ってこられるように、お母さんも私たちも全力を尽くす。だから長太郎くんはここで全力で待っていて」と声をかけたりん。そんな黒川やりんの頼もしい姿に、コロナ禍に最前線で闘っていた医療従事者たちを重ねずにはいられなかった。あの時期、感じた彼らへの敬意を改めて思い出させてくれる週になりそうだ。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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