『THE FIRST SLAM DUNK』“時間帯別上映”のメリットとは? 機会損失の観点から考える

「時間帯別上映」のメリットと負のスパイラル

昼に強いタイトル、夜に強いタイトル

 ただ現実には、夜に強いタイトルもあれば、昼に強いタイトルもあり、上映時間をずらして成績が落ちるだけの作品だってあるのだ。

 例えば、現在公開中の『大名倒産』は昼に強いタイトルだろう。時代劇は高齢者層の観客が多く、この世代は夜帯よりも昼帯に多く動く。実際、各シネコンは『大名倒産』をほぼ日中の時間帯に配置している。

 もちろん、『大名倒産』にだって、より若い世代でも観たい人はいるだろう。神木隆之介や杉咲花といった若い世代にも人気ある俳優が出演しているし、その中には夜じゃないと映画館に行けない人はいるはずだ。だが、どうしてもそれは少数派だろうと思われる。だから、全体の興行の後押しにはなかなかなりにくいのが現実だ。

 筆者もミニシアターで編成をしていたことがある。日々の営業の中で必ず、「あの作品をこの時間に上映してくれないか」という要望を受ける。実際、その声に答えて時間をずらして上映を試みたこともあったが、やっぱり成績は伸びないのだ。おそらく、全国の映画館も同じような経験をたくさんしていると思う。

ミニシアターを襲う負のスパイラル

 だが、こういう時間のすれ違いが続くと、それは映画館離れにつながってしまう。こういう機会損失はなるべく少ないに越したことはないので、『THE FIRST SLAM DUNK』が観客の声を聞いて、丁寧に告知をしていることは良い試みではあると思う。

 『THE FIRST SLAM DUNK』は、マンガ連載当時読んでいた40代くらいの世代から、若年層にまで支持する世代が広がっているので、時間帯をずらして上映することにも一定の効果があると思われる。ただ、本作はすでに高い興行収入を収めているから余裕があるので、こういうことができるという側面もあるだろう。

 ところで、この時間のすれ違いで苦しんでいるのは、シネコン以上にミニシアターの方だ。『THE FIRST SLAM DUNK』が朝・昼・夜の時間帯別上映を行う告知をした3日後、文化通信に「映画館閉館相次ぐ、負のスパイラル続いている模様」という記事が掲載された。(※)

 「負のスパイラル」とはこういうことらしい。

「ヒット作品が少ない。だから、上映作品を多くする。観客側から見て、行こうと思っている作品の時間帯が限られる。少ないながらも、見たい人が見に行かれない状況が生まれる。全体の興収が目減りする。そうなると、宣伝費もかけられない。作品の情報が減る。映画が浸透せず、興行に影響が出る。これが、負のスパイラルです。どこも、その状態に陥っています」

 ミニシアターも、かつてと比較して上映タイトル数が増加している。90年代なら、2スクリーンの劇場で2タイトルを1日中上映するということも珍しくなかったが、今はそれが難しくなっている。1本あたりの興行力が落ちているため、1日中上映するという決断をしにくいのだ。

 ミニシアターはシネコンほどスクリーン数が多くないので、一番稼げる時間帯から上映時間を動かしにくい。しかし、『THE FIRST SLAM DUNK』のように告知はしていないものの、週ごとに上映時間を朝や夜に変更したりと工夫はしている所も多い。けれども、シネコンほどスクリーンの数は多くないので、限界はある。

 『THE FIRST SLAM DUNK』の時間帯別上映の施策は、ある意味、普段から映画館がやっていることを、改めて丁寧に伝えたということでもある。これはこれで大切なことだと思う。劇場と観客が適切にコミュニケーションをとることで、当たり前だと思っていたことが案外相手には伝わっていなかったことがわかることもあるのだから。

 上映時間を決めるというのも、これ自体が劇場と観客のコミュニケーションでもある。実際、『THE FISRT SLAM DUNK』はこの告知をするだけで、ファンの声に耳を傾けているというイメージを創出することができている。劇場側としては当たり前のことでも、改めて伝えてみると反応も違ってくるかもしれない。

 年間1100本近くも映画が上映されている現在、届けるべき人に作品を届けることの難しさが増している。機会損失を完璧に防ぐ方法はないが、少しの心がけでそれを減らせることもあるかもしれない。「時間帯別上映」の実施と告知はそういうことを考えさせてくれた。

参照

https://www.bunkatsushin.com/news/article.aspx?id=227243

■公開情報
『THE FIRST SLAM DUNK』
公開中
原作・脚本・監督:井上雄彦
演出:宮原直樹、北田勝彦、大橋聡雄、元田康弘、菅沼芙実彦、鎌谷悠
キャラクターデザイン:井上雄彦、江原康之
CG ディレクター:中沢大樹
作画監督:江原康之
サブキャラクターデザイン:番由紀子
モデルSV:吉國圭、BG
プロップSV:佐藤裕記、R&D
リグSV:西谷浩人
アニメーションSV:松井一樹
エフェクトSV:松浦太郎
ショットSV:木全俊明
美術監督:小倉一男
美術設定:須江信人
色彩設計:古性史織
撮影監督:中村俊介
編集:瀧田隆一
音響演出:笠松広司
録音:名倉靖
キャスティングプロデューサー:杉山好美
音楽プロデューサー:小池隆太
2Dプロデューサー:毛利健太郎
CGプロデューサー:小倉裕太
アニメーションプロデューサー:西川和宏
プロデューサー:松井俊之
声:仲村宗悟、笠間淳、神尾晋一郎、木村昴、三宅健太
オープニング主題歌:The Birthday(UNIVERSAL SIGMA)
エンディング主題歌:10-FEET(EMI Records)
音楽:武部聡志、TAKUMA(10-FEET)
アニメーション制作:東映アニメーション、ダンデライオンアニメーションスタジオ
配給:東映
©I.T.PLANNING,INC. ©2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners
公式サイト:https://slamdunk-movie.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/movie_slamdunk/
公式Instagram:https://www.instagram.com/slamdunk_movie/
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