『らんまん』失意の田邊教授を癒す聡子の愛 研究者を“戦場”に向かわせる欲深さの意義
「そこまでして(中略)競わなきゃいけないんですか? 誰が発表したって、花は花じゃないですか」
誰かが築いた礎の上に、たくさんの研究者が“発見”という大小様々な石を重ねていく。それによって一つの作品が出来上がっていくことを学問とするなら、藤丸が言うように戸隠草の命名者という小さな石の奪い合いなど馬鹿げているという見方もできる。だが、誰よりも先に新事実を発見し、世間にその功績を認められたいという研究者の欲深さは決して馬鹿にできない。明日全てが無駄になるかもしれない研究に今日取り組めるのは、その欲があってこそ。授業の復習と予習に追われるだけの日々に疲れ切っていた藤丸が輝きを取り戻したのも、きっと万太郎たちと植物学雑誌の創刊を目指す中で自分も何か成果をあげたいという欲が生まれたからではないだろうか。
「誰だって怖いに決まってる。でもこのままだと、かけてきた時間まで否定することになる。
「だったら…競い続けるほうがマシだろ!」
いっしょに研究してきたからこそ、そうは言っていられない現実を受け入れ、藤丸の言葉を否定する波多野…。#朝ドラらんまん#前原滉 pic.twitter.com/9jSap9CNix
— 連続テレビ小説「らんまん」 (@asadora_nhk) July 16, 2023
徳永准教授(田中哲司)は「ここはそういう場だ。一人ひとりが自分と戦う戦場なんだ」と藤丸に言う。孤独で心がヒリヒリするような戦い。当然それに疲れてしまう時もあり、藤丸がウサギに癒しを求めるように、田邊教授もシダや、シダに似た妻・聡子(中田青渚)に癒しを求める。シダは花も咲かせないし、種も作らない。そのどこか争いとは無縁の静けさが田邊教授のお気に入りだ。同じように、自分の仕事について深入りせずただ「おかえりなさい」と迎え入れてくれる聡子が彼の荒れ果てた心を癒す。加えて、万太郎と寿恵子(浜辺美波)との間に新たな命が芽生えたのに対し、田邊教授と聡子には子供がいない。だが、子供がいようと子供がいまいと田邊教授は聡子を愛しているということが、シダを愛でる教授の姿から伝わってきた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK