『らんまん』今野浩喜が大窪の溢れる感情を見事に表現 万太郎たちの“愛”が空気を変える
『らんまん』(NHK総合)第15週「ヤマトグサ」第74話では、万太郎(神木隆之介)が高知で採集してきた植物を新種であると突き止める。それは、寿恵子(浜辺美波)や今は亡きタキ(松坂慶子)に「名付け親になりたい」と誓った約束への大きな一歩。その共同研究者は、植物学教室講師の大窪(今野浩喜)。彼は波多野(前原滉)、藤丸(前原瑞樹)と長屋の万太郎の家に出向き、頭を下げてまでも一緒に研究をしたい、しなければならないと思うまでに焦燥感を募らせていた。
東京大学植物学教室に万太郎がやってきたことで、教室の面々の考え、さらには人生までもが一変した。それは「本物」の植物への愛。田邊(要潤)も万太郎を自身の邸宅に招き、採集してきた標本を目の当たりにした際に「どうやら君は本物のようだ」と認めている。その圧倒的な才能を前にして、多くは劣等感を抱くが、そこからどう考え、行動するかに田邊や大窪らのその後が表れている気がする。
「このままじゃ、誰も万太郎に勝てない」と気づき、それぞれの立場から植物をさらに好きになろうとしたのが波多野や藤丸、大窪に助教授の徳永(田中哲司)だった。それは同時に万太郎を受け入れようとしたことにもなる。対して、田邊は自身の教授という立場から万太郎ごと利用しようとした。そして、拒絶された。その結果、田邊を見る周りの視線には明らかな不信感が漂い、いつの間にか田邊は万太郎たちの輪に入れず、独りになっている。かつて万太郎が植物学教室にやってきた時、小学校中退だと知り大学への出入りを猛反対していたのは徳永や大窪であり、田邊は万太郎を快く受け入れていたが、いつしかその関係性は逆転してしまっている。
万太郎と大窪の共同研究は連日連夜続いた。季節は秋から冬となり、除夜の鐘を聞いた万太郎が焦って寿恵子の待つ長屋に戻り年越し蕎麦を食べる、というシーンからも2人は相当長い間研究に没頭していたことが分かる。研究のポイントとなるのは採集してきた植物が、図鑑に表記のある「Theligonum(セリゴナム)」と一緒ではないことを証明すること。連日連夜の研究の末に、なかなか進捗が芳しくないことで怒りが爆発した大窪が、「ああ〜! セリゴナム! お前は一体……」と声を張り上げるシーンは、演じる今野浩喜(どちらかというとコントのトーンに近いような)の味が前面に出ていてニヤリとしてしまった。万太郎が土佐で見つけた植物が、ギリシャの植物と繋がりがあることを知り、「すごいな……」と笑みを浮かべる大窪と2人をそっと見守る徳永。さらにはセリゴナムの植物画を見つけ、万太郎と一緒になって雄叫びを上げる大窪の姿からは、植物が好きという気持ちが溢れている。
教授室にも届いてくる万太郎たちの喜びの声。動きの止まったペン先からインクの黒がじわっと染み込み広がっていく様子は、まるで田邊の孤独な心情を表しているかのようだ。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK