『水星の魔女』スレッタは“肯定”し“祝福”する 最終回に込められた現代人へのメッセージ

『水星の魔女』最終回に込められたメッセージ

 2クールに渡って描かれた『機動戦士ガンダム 水星の魔女』がいよいよ最終回を迎えた。放送時にはSNSのトレンドを席巻するなど、今期大きな注目を集めた作品が幕を閉じる。

※本稿には『機動戦士ガンダム 水星の魔女』最終話(第24話)のネタバレを含みます。

 これまでの『ガンダム』シリーズとは違って、TVシリーズ初となる女性主人公という現代に即したアニメとして話題となった『水星の魔女』は、Season1のラストで視聴者を絶望の淵へと落とし、Season2ではスペーシアンとアーシアンによる溝を描き出すなど、キャッチーなキャラクターデザインとは裏腹に深いテーマを私たちに突きつけてきた。果たしてどのように物語が帰結するのか、ひょっとしたら悲劇の結末が待ち受けているのではないか、という予感も過ぎった本作だが、最終的には綺麗な終わり方だったように思う(詳細は後述する)。

『水星の魔女』は令和に刻まれる『ガンダム』に 視聴者の予想を覆した多彩なキャラ描写

2022年10月の放送開始以来、多くのファンを巻き込んで2クールの放送を突き進んだ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』がフィナーレを…

 前回、宇宙議会連合の放ったレーザー送電システムによって大きな損害を受けたエアリアル。救出に駆け付けたスレッタだったが、急激にデータストームの負荷が襲いかかって倒れてしまう。かつてエアリアルに乗っていたときにはなかったデータストームによる負荷。ガンダムがいかに人間にとって高負荷がかかるものだということを思い知らされる。それでもスレッタはエリクトを助けるために、プロスペラが待つクワイエット・ゼロへと向かうことを決意する。プロスペラはスレッタに対しエリクトをクワイエット・ゼロへと繋ぐように指示するが、スレッタは「嫌だ。エリクトは渡せない」と初めて母親の言葉を拒絶し、自分の意思を伝えることができた。だが、スレッタは欲張りだ。母親であるプロスペラをも失いたくはないと力強く宣言する。母親から見捨てられ、エアリアルをも奪い取られ、一時は悲しみに暮れていたスレッタの姿を想像すると、大きな成長だ。

 スレッタはこれまでは母親の言葉である「逃げたら一つ、進めば二つ」を行動の指針としてきた。たとえ、グエルと決闘するときも、プラントクエタ襲撃事件で否応なしに人間を殺すことができたのも、母親の言葉があってこそだった。一方でプロスペラの言葉を全て正しいと思い込んでしまう盲目的な側面もあった。第16話でミオリネと温室で会話した際にも、ミオリネがの「母親が言うならガンダムで人を殺すの?」という問いに対して、まっすぐに「はい」と答え、ミオリネとの仲がぎこちなくなったこともあった。だが、そうしたスレッタもミオリネ、そして地球寮のメンバーと信仰を深めていくに連れて、自分で考えることの意味を知ることになったのだ。このようにスレッタはたくさんの大切なものを抱えている。それでも欲張りだからこそ、みんなに祝福が訪れてほしいと願うのがスレッタだ。そのためには、自分が犠牲になっても構わない。

 レーザー送電システムから大事な人を守るため、意を決したスレッタがスコアレベルを引き上げると、データストーム空間にいるエラン4号が目の前に現れる。そして手を取り合い、エリクトを強引に覚醒させることに成功する。エリクトの鍵たるスレッタは最後の最後に重要な役目を果たすのだった。シェルユニットが虹色に光輝いたキャリバーンはスコア8よりも上のスコアを叩き出しており、オーバーライドする範囲が大幅に広がったと考えるのが妥当な推測なのかなと考えられる。スレッタはGUNDの力で通信システムを乗っ取ることに成功すると、それに乗じたミオリネがベネリットグループの解散と清算手続きの申請を行ったことを通達。これは完全にミオリネの戦略勝ちといったところ。追い込まれてもなお冷静な態度を貫き続けたミオリネは本当に肝が据わっている。

 プロスペラの前にナディム、カルド、ナイラ、ウェンディといったかつての同胞を呼んだのはスレッタ。復讐ではなくエリクトとの未来を選んだプロスペラ。そんな彼女をスレッタは“肯定する“。プロスペラが犯してきた罪は決して許されるべきではない。ただ、一番に傍にいるはずのスレッタだけはいつでも味方だったのだ。そして、これまで実体として見ることが出来なかったエリクトとプロスペラの抱擁シーンと、プロスペラのスレッタに対する謝罪は胸が熱くなった。

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