宮沢りえ主演×石井裕也監督『月』10月公開 共演にオダギリジョー、磯村勇斗、二階堂ふみ

宮沢りえ×石井裕也『月』10月公開

 宮沢りえが主演を務める石井裕也監督最新作『月』が、10月13日より新宿バルト9、ユーロスペースほかにて全国公開されることが決定した。

 本作は、実際の障害者殺傷事件をモチーフにした辺見庸による小説『月』を映画化するもの。事件を起こした個人を裁くのではなく、事件を生み出した社会的背景と人間存在の深部に切り込まなければならないと感じたという著者は、「語られたくない事実」の内部に潜ることに小説という形で挑戦した。この問題作の監督を務めるのは、コロナ禍を生きる親子を描いた『茜色に焼かれる』、新作『愛にイナズマ』などの石井監督。十代の頃から辺見の作品に魅せられてきたという石井が、原作を独自に再構成し映画化した。

 なお本作は、『新聞記者』や『空白』を手がけてきたスターサンズの故・河村光庸プロデューサーが最も挑戦したかった題材でもあったという。それは、日本社会に長らく根付く、労働や福祉、生活の根底に流れるシステムへの問いであり、複眼的に人間の尊厳を描くことへの挑戦だった。オファーを受けた石井監督は、「撮らなければならない映画だと覚悟を決めた」と、このテーマに目を背けてはならないという信念のもと、キャスト・スタッフと共に作り上げる決意をした。そんな監督の元に集ったのは、主演の宮沢のほか、オダギリジョー、磯村勇斗、二階堂ふみ。

 主演の宮沢が演じるのは、重度障害者施設で働くことになる元有名作家の主人公・堂島洋子。オダギリが彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平、二階堂が作家を目指す施設職員の同僚・陽子、磯村が絵の好きな青年さとくんをそれぞれ演じる。そのほか、長井恵里 、大塚ヒロタ 、笠原秀幸、板谷由夏、モロ師岡、鶴見辰吾、原日出子、高畑淳子が出演する。

 深い森の奥にある重度障害者施設。ここで新しく働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は書けなくなった元有名作家。彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平(オダギリジョー)と、ふたりで慎ましい暮らしを営んでいる。施設職員の同僚には作家を目指す陽子(二階堂ふみ)や、絵の好きな青年さとくん(磯村勇斗)らがいた。そしてもうひとつの出会いーー洋子と生年月日が一緒の入所者、きーちゃん。光の届かない部屋で、ベッドに横たわったまま動かないきーちゃんのことを、洋子はどこか他人に思えず親身になっていく。しかしこの職場は決して楽園ではない。洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにする。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだ。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげていく――。そして、その日はついにやってくる。

 あわせて、本作をいち早く鑑賞した有識者からコメントが到着。クランクインの直前に亡くなった河村プロデューサーの遺志を受け継ぎ、本作を完成させた長井龍プロデューサーは、「目の前の問題に蓋をするという行為が、社会の至る所に潜んでいるのではないか、という問いが本作には含まれている」と語っている。

コメント

見城徹(編集者)

この社会に蔓延る嘘と現実、善と悪、建前と本音の判断を宙吊りにしたとてつもない映画だった。「月」は誰もが当たり前のように見ているが、実は誰も本当に存在しているのか解らない曖昧なものでもある。しかも、「月」は太陽の光に照らされて様々に姿を変える。だから、「月」はロマンチックな影を人間の心に落とすのだ。オダギリジョーと宮沢りえ夫婦が直面する圧倒的な現実と磯村勇斗の心に影だけを落とす「月」はライバルのように激しくせめぎ合う。後半は磯村勇斗の狂気(=ルナティック=月)を誰も否定出来なくなるが、ラストに宮沢りえがオダギリジョーにかける一言がこの映画を万感の想いで支えている。身動きも出来ないまま観終わって、まだ映画に犯されている。世に問うべき大問題作にして大傑作の誕生。石井裕也監督、此処にあり。凄過ぎる。

高橋源一郎(作家)

『月』を観て、名状し難い感銘を受けた……と書いて、これは正確ではないと思った。ぼくが感じたものは、もっとずっとやっかいで、ことばにするのが難しいものだった。『月』では、障害者施設を襲い、そこに収容されている人たちを殺傷した現実の事件とその犯人らしき人物がモデルとして描かれている。そこには重い問いかけがある。どんなことばもはね返してしまうような強烈な問いである。だが、その問いよりもさらに強く、訴えてくるのは「月」だと思った。映画全体をひたしている「月の光」だ。「太陽の光」はまぶしく、すべてのものを照らし尽くす。そこではすべてが見えてしまうだろう。世界の隅々までまでくっきりと。けれども、「月の光」はちがう。ぼくたちひとりひとりを個別に照らすか細い光である。その淡い光の下でだけ、ぼくたちは「個」になるのだ。登場人物の多くは、「ものをつくる人」である。そして、同時に「うまく作ることができない人」でもある。彼らは淡い「月の光」の下でそのことを知る。そこで生まれてくるものがある。そこでしか生まれないものが。それがなになのかぼくにはよくわからない。『月』は、あまりに強烈なテーマを扱っているので、もしかしたら観客は、そちらに視線を奪われるかもしれない。そうではない。もっとずっと繊細で、実はおぼろげなものが、そこにある。それは「生きる」ということなのかもしれない。もう一度書くが、ぼくにはその正体がはっきりとはわからない。わからないまま、ぼくはうちのめされていた。ぼくもまた、この映画が発する「月の光」の下にいたのだ。

森直人(映画評論家)

石井裕也が命がけでぶん投げてきた灼熱の問題提起の豪球。我々にできるのは、火傷しながらも全身で受け止めること。『月』は告げる。もう見え透いた嘘はやめにしよう。本気の表現しか響かない新しい時代が目の前に来ている。

恩田泰子(読売新聞編集委員)

石井裕也監督の「月」は、広く公開され、たくさんの人に届けられなければならない。この映画は、苛烈にして誠実な表現をもって、人や社会をぬくぬくとくるんできたきれいごとを剥がし、見ているふりをして見ていなかったこと、考えているふりをして考えていなかったことを突きつけてくる。もう逃げたり、ひるんだりしているわけにはいかない。カオスの中でつつましくまたたく希望のかけらを見つけ出すために。この映画から、しっぽを巻いて逃げ出したら、それこそもう絶望しか残らないのだ。

■公開情報
『月』
10月13日(金)より新宿バルト9、ユーロスペースほか全国にて公開
出演:宮沢りえ、磯村勇斗、長井恵里 、大塚ヒロタ 、笠原秀幸、板谷由夏、モロ師岡、鶴見辰吾、原日出子、高畑淳子、二階堂ふみ、オダギリジョー
監督・脚本:石井裕也
原作:辺見庸『月』(角川文庫刊)
音楽:岩代太郎
企画・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸   
製作:伊達百合  竹内力 プロデューサー:長井龍 、永井拓郎
アソシエイトプロデューサー:堀慎太郎、行実良
制作プロダクション:スターサンズ 
制作協力:RIKIプロジェクト 
配給:スターサンズ
2023年/日本/144分/カラー/シネスコ/5.1ch
©︎2023『月』製作委員会
公式サイト:tsuki-cinema.com

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