『ザ・フラッシュ』がなしとげた素晴らしい達成 スケールとテーマの理想的なバランス
また、ゾッド将軍との対決に向けて大きな戦力となる、スーパーガールの存在も大きい。映画ではヘレン・スレイターが演じ、TVシリーズでメリッサ・ベノイストが演じていたように、これまでブロンドのロングヘアーでスカートを履いた、ファラ・フォーセットやゴールディ・ホーンを連想させるところがあるのがスーパーガールのイメージだったが、ここではコロンビア系のサッシャ・カジェが、黒髪のショートカットで演じていることで、新鮮なスーパーガール像が新たに生まれることとなった。
スーパーガールは、今回別のバースでのヒーローとして登場したため、これ限りの登場ということも考えられるが、彼女の演じるキャラクターに魅了された観客は少なくない。またひょっこりシリーズ作品に登場したり、独立した企画で彼女の活躍を観ることができるかもしれない。
本作のキャスティングで懸念となっていたのは、主人公バリーを演じたエズラ・ミラーが、映画とは離れた現実の世界で問題行動を繰り返しおこなっていた点である。暴力行為での逮捕や、強盗容疑での起訴、さらに違法薬物の所持や、12歳の少女にアルコールや薬物を与えていたなど、それらは俳優を続けること自体に疑問をおぼえるようなレベルの行為と言ってもおかしくない。
エズラ・ミラーは、一連の行為を公に謝罪し、メンタルヘルスの治療を受けると発言している。彼の役の継続についてはさまざまな意見があると思われるが、少なくとも、他者に危害を与えた部分については、本作『ザ・フラッシュ』で演じた理想的なヒーロー像と、あまりに乖離し過ぎていると言わざるを得ない。俳優は別の人間を演じる仕事だとはいえ、それを知ったうえで本作を観るのに、多かれ少なかれ引っかかりが生まれることは避けられないと考えられる。
一方で、本作のミラーの演技に、いつもながら神がかっている部分があることも事実だろう。出演作『少年は残酷な弓を射る』(2011年)に代表されるように、数秒後に何をやるか分からないような危うさや、底の見えないミステリアスな印象は、そのまま本作の役柄にも反映されている。とくに18歳のバリーの演じ方は、ハイティーンの不安定さが必要以上に表現され、現実のミラーの問題行動を知らないとしても、異様な雰囲気を感じるところがある。そこが、本作に名状し難い深みを与えている部分でもある。
しかしながら、その危うさを覚える所作が、実際のミラーの問題行動やメンタルヘルスの問題と近しいものがあるという印象は、気のせいとはいえないのではないか。実際に被害者が存在することで、果たしてそのような部分を魅力として受け取ったり、娯楽として消費して良いのかどうかは、映画会社がキャンセルを選択しなかった以上、観客にゆだねられることになってしまったといえよう。だが少なくとも個人的には、ゆだねられても困るというのが正直なところだ。
とはいえ、本作が見事な出来になったこと自体は否定しようがない。ザック・スナイダー監督がさまざまな事情でDCヒーロー映画の製作現場を離れてから、クリエイティブな面を統括する存在は“空位”となっていた。そのことで、プロデューサーにより大きな権限があるマーベル・スタジオに比べ、あくまで監督が主導権を持つことが、近年のDC映画の特徴だったといえる。
マーベル・スタジオが計画された連続性を魅力として成功を得ていった一方、DCは無策であるがゆえに『ジョーカー』(2019年)のように、ヒーロー映画初のアカデミー賞主演男優賞やヴェネチア国際映画祭最高賞を獲得する規格外の作品が登場したことも確かなのだ。
しかし、そんな状況は過去のものとなりつつある。パティ・ジェンキンス監督がヒットシリーズ『ワンダーウーマン』で成功をもたらした功労者でありながら、第三作の脚本を突き返されたという報道から分かるように、監督たちの創造性に大きな制限が生まれてきている。とはいえ、ワーナー・ブラザースの経営陣がアベレージの高いマーベル・スタジオ型の方式に、本格的に移るといったビジネス的判断も理解できなくはない。
だが、新たな統制以前から製作されていた本作『ザ・フラッシュ』が、事前の興行成績予想を下回りながらもマーベル・スタジオのシリーズをも圧倒できる内容になったという事実も無視できないはずだ。今後のDCスタジオが製作するシリーズの興行成績の推移によっては、そのことが再び混乱を呼び込むことになるかもしれない。それほどに本作は素晴らしい達成をなしとげたということなのだ。
■公開情報
『ザ・フラッシュ』
全国公開中
監督:アンディ・ムスキエティ
出演:エズラ・ミラー、ベン・アフレック、マイケル・キートン、サッシャ・カジェ、マイケル・シャノン
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:flash-movie.jp