『I MAY DESTROY YOU』は画期的なドラマだ 現代的な方法で描いた性的暴行とその後遺症
さらに注目すべきは、同年、2020年に同じく女性作家自ら現代のレイプカルチャーを痛烈に批判し、第93回アカデミー賞で脚本賞を受賞した映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』との違いだろう。性的暴行を受けた友人が自殺したことに対処できず、医学部を中退したキャシー(キャリー・マリガン)が、泥酔したふりをして犯罪者を追う『プロミシング・ヤング・ウーマン』はある種「レイプリベンジ映画」に属すると言える。『鮮血の美学』(1972年)や『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』(1978年)をはじめ、1970年代に隆盛を極めたレイプリベンジ映画は、強姦の被害にあった生存者が、法律や警察が守ってくれないことを認識し、加害者に直接自らの手で鉄槌を下すジャンルである。あるいは被害女性の父親、夫、彼氏がその代理となって暴力的な復讐を執行する。『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、実行者を女性に置き換えたこの代理の復讐者のバリエーションであり、性的暴行の搾取的で露骨な描写を一切排し、このジャンルを再構築したのである。しかし一方で、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の問題は、従来のレイプリベンジ映画が観客にもたらす正義のカタルシスをも排除してしまったことだった。抵抗する女性は、物語のなかで男たちの手によって無残に罰せられてしまい、空虚な展示物として彼女の死を見せてしまったのだ。
それに対して、「私はあなたを破壊するかもしれない」という題名を持つ本作は、レイプリベンジ的な物語の慣習を乗り越えてみせる。作家であるアラベラは、強姦犯への復讐あるいは同情などさまざまな解決を夢想してみて、それらをひとつひとつ否定するのである。物理的な暴力による復讐を一度は空想しながらも、それを実体験を綴った本のなかでのファンタジーとして留め、創造的に昇華させる過程を描いてみせるのだ。作家である主人公が、フィクションの創造を通して、旧来の家父長的な物語が女性に要請してきた義務に応じることなく、女性の癒しと解放を新たに導き出す。それは、ルイーザ・メイ・オルコットの古典をグレタ・ガーウィグがモダンに解釈した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)とも通じる現代性かもしれない。『アイ・メイ・デストロイ・ユー』は、ニュアンス豊かに性的同意の境界線に踏み込んでいくとともに、性的暴行の凝り固まった物語を鮮やかに革新する。
■配信情報
『I MAY DESTROY YOU / アイ・メイ・デストロイ・ユー』
U-NEXTにて見放題で独占配信中(全12話)
出演:ミカエラ・コール、ウェルチェ・オピア、パーパ・エッシードゥ
監督:サム・ミラー、ミカエラ・コール
脚本:ミカエラ・コール
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