『合理的にあり得ない』には“負の要素”も 天海祐希が依頼人に向けるあたたかな眼差し

『合理的にあり得ない』天海祐希の眼差し 

 『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』(カンテレ・フジテレビ系)が6月26日に最終回を迎える。このドラマでは探偵・上水流涼子(天海祐希)とIQ140の相棒・貴山伸彦(松下洸平)がタッグを組み、事件を“あり得ない”方法で解決へと導いていく。

 本作はコメディ要素が放送当初からウリとなっている。天海は涼子をコミカルに演じており、彼女の表情や動作、台詞回しなどに笑いを誘われる視聴者は多いだろう。しかし、作品には人間の貪欲さや薄情さなどといった負の要素も多く織り込まれていることを見落としてはならない。

 第1話に登場した不動産ブローカーの神崎恭一郎(髙嶋政伸)は儲けのために松下夫妻が所有する土地と工場を悪徳な方法で奪い取り、松下昭二を自殺に追い込んだ。また、第6話に登場した慈善家として知られる八雲治(浅野和之)と国会議員で外務副大臣の増本幸次郎(石黒賢)は癒着して不正に私腹を肥やし、さらには自分たちの悪事の証拠を隠ぺいするために野崎(野村麻純)の命を奪った。彼らは野崎の命を奪ったのと同様の理由で貴山の自宅を放火し、彼の母と妹の命を奪い、父の勇作(小林隆)を意識不明の状態にした犯人でもある。

 本作では私利私欲に満ちた悪徳な人物が犯人として毎回登場し、人間のダークな側面が浮き彫りとなっている。しかし、人間は情に厚く、愛情深い生き物であることも視聴者は涼子によって再確認させられる。彼女は自分の利益よりも依頼人を優先し、赤字覚悟で事件の解決に向けて奔走している。その上、依頼人の将来の幸せを願って報酬を受け取らないことも珍しくない。

 義理人情に厚い涼子であるが、彼女もまた悲しい過去をもつ一人だ。涼子はある傷害事件をきっかけに弁護士資格をはく奪されるが、彼女はこの事件の被害者である椎名保(野間口徹)を殴ったときの記憶がほとんどない。涼子はこの不可解な事件について誰かにはめられたのではないかと推し量っているはずだ。また、事件を機に諌間慶介(仲村トオル)に顧問弁護士をあっさりと解雇され、ピンチの際に他人をあてにできないことを身をもって知る。涼子はこのように人の手によって辛く苦しい経験をしているが、他者を憎んだり社会を恨んだりすることはないし、人生に絶望することもない。

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