『ペンディングトレイン』赤楚衛二の思わぬ絶望 直哉の心の痛みを切実に表現する山田裕貴

『ペントレ』赤楚衛二の思わぬ絶望

 希望を抱いて戻った先に待っていたのは「絶望」だ。『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系/以下『ペンディングトレイン』)の第9話では、いよいよ現代編として2026年での暮らしが描かれる。そこで、みんなが直面した現実はあまりに残酷なものだった。

 5号車がたどり着いたのは、2026年。電車消失事件から3年後の世界に降り立った直哉(山田裕貴)ら乗客一同は、病院で検査を受けてからそれぞれの家族と再会することになる。だが、感動と希望に溢れる再会劇はここまで。3年のあいだにそれぞれの家族のライフスタイルは変化し、しまいには「事件の生還者」としてネットで晒される事態に。直哉はワームホールを通る時に手を怪我したことで、美容師としての復帰も叶わなかった。おまけに達哉(池田優斗)が彼女を作り、かつて直哉が住んでいた部屋で同棲までしていたために居場所もない。母親は、これまでまったく面倒をみなかったくせに意気揚々とインタビューに答え、直哉のことを「自慢の息子」と話している。だが絶望するような出来事に直面しているのは直哉だけではない。優斗(赤楚衛二)もまた、イケメン消防士としてネットの注目を集めた挙句、思わぬ炎上事件を引き起こしてしまう。紗枝(上白石萌歌)は保護者や生徒を混乱させないために学校を辞め、玲奈(古川琴音)もトラブルを起こす様子をネットに上げられるなど、荒廃した世界とは別の苦しみが待っていたのだ……。

 視聴者は乗客が抱いていた希望を一緒に抱き、応援し続けてきただけに、第9話での出来事はあまりにショッキングだっただろう。現代に戻れば、安全で幸せな暮らしが待っていると思っていた。また、ひねくれていた直哉がやっと家族と向き合える日が来たかと思っていた。しかし、現実はそう甘くない。どんなに向き合おうともがいても、外野の影響で無惨にも引き裂かれていってしまう。そんな直哉の心の痛みを、山田裕貴は切実に表現する。優斗から「なんでもう、そんな死んだ目をしている?」と指摘されるほど、直哉の心はズタズタになっていたのだ。山田のこの目は、忘れられないほど強い印象を残す。そして後に、赤楚衛二が演じる優斗の物語へと繋がり、壮大な伏線となった。

 現代に戻ってきてからも乗客たちを取りまとめていたのは優斗だ。世の中の人が誰も未来での話を信じてくれないという逆境の中でも、優斗は逞しく立ち向かい続ける。いつも変わらず心の中は「みんなを助けたい」という思いで溢れていた。もちろん優斗にだって苦しみはある。想いを寄せていたお好み焼き屋の真緒(志田彩良)は優斗のいない3年間のあいだに結婚していたし、警察には未来での話を信じてもらえず門前払い。それでも懸命にこの世界を守ろうと立ち向かっていたのだ。だが、そんな優斗の心も思わぬ炎上事件のせいでぽっきりと折れてしまう。ここで赤楚が演じたのは絶望だ。瞳からは光を消しさり、まさに自身が直哉に問いかけたような「死んだ目」でしゃがみ込んでいる。情熱や信念といった熱い魂は失われ、この世界に希望を見出せなくなった姿がそこにあった。

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