『医師チャ・ジョンスク』が描く“リアル”な人生 多種多様なスパイスの連続がクセになる

『医師チャ・ジョンスク』が描くリアルな人生

 20年間専業主婦だった女性が、自身の病気を機に諦めていた夢ともう一度向き合おうと研修医1年目となる姿を描く韓国ドラマ『医師チャ・ジョンスク』が最終話を迎えた。JTBCの歴代ドラマ視聴率は『梨泰院クラス』を追い越し、『夫婦の世界』『財閥家の末息子』『SKYキャッスル』に次いで第4位。いま大注目の作品だ。本記事では、そんな本作の見どころを振り返ってみたいと思う。

※以下、ネタバレ含む

 「そんなワケ……!」とツッコミたくなってしまうほどの修羅場っぷりと、痛いほど伝わるリアルな感情の絶妙なバランスが視聴者の心を掴む理由の一つ。劇中では、クサン大学病院を舞台に登場人物が集結し、とんでもない修羅場が出来上がってしまう。例えば、初恋の相手チェ・スンヒ(ミョン・セビン)と再会し不倫中の夫ソ・イノ(キム・ビョンチョル)は、彼女と一緒にクサン大学病院で働いている。そこに、イノの息子ジョンミン(ソン・ジホ)と、物語の主人公でありイノの妻チャ・ジョンスク(オム・ジョンファ)も合流し、同じ病院で働くこととなる。さらに、ジョンスクに好意を寄せるロイ・キム(ミン・ウヒョク)先生まで現れて、画面は大渋滞。あまりに修羅場が重なるとお腹いっぱいに感じてしまうかもしれないが、繊細な感情の描写に心を揺さぶられるのが本作を見続けたくなるポイント。

 信じていたものが一夜にして崩れ去り心の拠り所を失う妻の気持ちや、完璧な父親ではないけれどそれでも側にいて欲しいと思う子の切実な想い、1人で苦しみを背負い続けてきた娘を思いやるせない気持ちになる母など、どれも涙が溢れてしまう。ドラマの世界の話だけれども、なんだかリアル。そんな空想とリアルさの塩梅こそが、視聴者を惹きつけ続けているのではないだろうか。

 本作の特徴をもう一つ挙げるとすると、現実に立ち向かうが、一線は越えないところ。復讐や受験をテーマにした話題作『ペントハウス』『SKYキャッスル』『夫婦の世界』が斜め上すぎて展開が読めないサスペンスだとすると、『医師チャ・ジョンスク』は夫の不倫に頭を抱える妻の生き方と成長を描くちょっとリアルな人生ドラマ。作品ごとに違いはあるが、前者は復讐や競争のために銃が出てきたり、監禁されたり、死んだ人が生き返ったりと一線を飛び越え、あまりに展開が読めないからこそ夢中になる。後者は、ギリギリ現実的にあり得そうな範囲の演出展開に、ベテラン俳優陣の演技とセリフのスパイスが加わる。

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 例えば、ジョンスクが病気を患った時に自分の心配ばかりしていた夫へ「クソ野郎」と手術後の第一声で放ったり、職場の飲み会で周囲に秘密にしている夫のことを聞かれ「死にました」と真顔で言ったりと、観ているこちらが吹き出してしまう。また、問題だらけの夫イノも、ただただ最低なヤツと言い切れないのが不思議なところ。自分主語で自分ファーストなキャラクターだが、ここぞという時はプライドを捨てカッコ悪い姿を全力でさらけ出す。その多種多様なスパイスの連続がクセになって、ついつい毎週見続けてしまう。

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