『非常宣言』は分断された現代社会を映し出す 対比的な“空”と“地上”のアクションシーン

『非常宣言』は分断された現代社会を映し出す

空と地上のアクションシーンの対比

 アクション場面について触れておこう。座席に座る乗客の髪の毛がふわりと浮かぶ場面が印象的だった。一瞬の無重力状態が訪れたあと、機体はぐるっと回転して逆さまになり、シートベルトをしていない乗客は天井に叩きつけられた。Blu-ray豪華版の特典映像には、この撮影を捉えたメイキング映像がある。撮影用に本物のボーイング777(大型機)が使われ、輪切りにされ、回転装置に乗せられている。大がかりな仕掛けによる撮影である。

 一方、地上でのカーチェイスのシーンは、これとは真逆の性質のもの。ソン・ガンホが走って共犯者を追いかける。途中で同僚が乗る車に乗り込んで追跡を続けるが、車に乗る前と後のカットの切り替わりがない(どうやって撮影したのか不思議)。何台もの車や歩行者の間をすり抜けてバイクを追跡、急に右折して大きな交差点に向かい、大型バスの前を横切る。このシーンの最後で車が横転するまで1分ほどワンカットの映像が続くのだ。普通、カーチェイスは外観を撮影し、細かくカットを割るはずだ。最後に車が逆さまになるが、後部座席のカメラの視点では、一瞬何が起きているのか理解ができない。カメラも一緒にぐるんと回っているから。車の中から血だらけのソン・ガンホが這い出てくるところ(ここでカットが替わる)で逆さまになっているのがわかる。シートベルトをしていなかったのだ。

 飛行機が逆さまになる場面が、いかにもエンターテインメント映画的な大仕掛けのスタジオ撮影だったのと正反対に、地上の自動車のアクション場面はドキュメンタリー的にも見える。別々の手法で撮影された2つのシーンを見比べるだけでも、映画を観る価値は十分にある。

 『非常宣言』は、乗客、乗務員、国道交通大臣、家族それぞれの場所で最善を尽くす人々の姿を描いている。乗り物の事故、ハイジャック、テロリズム、大規模災害のような状況で、個々人ができることは少ない。最低限、すべきこととは何か。冷静になること。さらには軽々しくネットで誰かを叩いたりしない。それ以前に飛行機、自動車ともにシートベルト……かな。

■リリース情報
『非常宣言』
6月2日(金)発売 

<Blu-ray豪華版>
6,380円(税込)

<DVD>
4,400円(税込)

【Blu-ray豪華版 特典内容】
<封入特典>
・初回限定特典:ポストカード(4枚セット)
<特典映像>
・メイキング
・韓国版キャラクタートレイラー(韓国語字幕)
・海外版予告
・日本語予告
・キャスト/キャラクター紹介
・S#65 ストーリーボード集

※仕様は予告なく変更となる場合あり

発売元:株式会社クロックワークス
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
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