“大空のイ・ビョンホン”と“大地のソン・ガンホ” 『非常宣言』が我々に投げかける選択肢

『非常宣言』が我々に投げかける選択肢

 韓国のスカイパニック映画『非常宣言』は、観客が驚く要素に溢れた大作だ。「パニック映画」は、次々に訪れる危機を、人々が乗り越えようとする姿を描いていくものだが、それを知っていてもなお、本作の意外な展開の数々には、いちいち驚かされ続けることになるだろう。

 その内容を紹介する前に、すでに驚かされてしまうのは、集結した豪華キャストの面々である。もともと韓国映画になくてはならない存在でありながら、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のアカデミー賞受賞、『ベイビー・ブローカー』(2022年)で主演男優賞を獲得するなど、より象徴的な俳優となったソン・ガンホ。日本における「韓流スター」のレジェンドかつ実力派俳優であり、『G.I.ジョー』シリーズなど、ハリウッドスターとしても活躍しているイ・ビョンホン。この二人の共演は初めてではないが、年月が経つごとに、顔合わせのプレミア感は高まるばかりだ。

 さらに、『シークレット・サンシャイン』(2007年)のチョン・ドヨン、『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』(2017年)のキム・ナムギル、『名もなき野良犬の輪舞』(2017年)まで出演しているイム・シワンなど、韓国映画のファンでなくとも、どこかで目にしているレベルの俳優陣が次々に出演しているのである。これにいま圧倒されてしまうというのは、近年の韓国映画の世界的な評価が、急激に高まっているせいもあるだろう。

 そんな本作が描くのは、飛び立った旅客機の機内で起こる、最悪のバイオテロだ。感染力、症状ともに危険性が著しく高いウイルスが蔓延し、機は大勢の乗客を乗せたまま、深刻な危機に陥ることとなる。主役となるのは一人ではなく、この脅威に対抗する人々が群像的に描かれていくのである。また同時に地上では、大惨事を回避するべく尽力する空港関係者や、政府要人、捜査に奔走する警察の姿が描かれる。日本映画でいえば、走行中の新幹線に仕掛けられた爆弾が脅威となるスリラー『新幹線大爆破』(1975年)に近い構成だといえる。

 イ・ビョンホンが演じるのは、飛行恐怖症のジェヒョク。彼は娘の治療のため、一緒にハワイ行きの旅客機に乗り込もうとしていた。そこで親子は、イム・シワンが演じる挙動不審な男にしつこく絡まれることになる。その言動に危険なものを感じたジェヒョクは、男が自分たちと同じ便「KI501便」に乗り込んできていることに不安を覚える。

 一方、地上では、ソン・ガンホ演じるク刑事が職務にあたっていた。彼は、妻とのハワイ旅行をキャンセルして、妻だけを旅立たせてしまっていた。しかしまさか、その妻の搭乗した機「KI501便」が、テロの標的になるとは、全く想像もできなかったことだろう。ク刑事は、妻を救うために事件の捜査にあたらざるを得なくなる。

 他にも、事態収拾をはかる国土交通大臣(チョン・ドヨン)や、機のパイロット(キム・ナムギル)、感染の危機に怯える乗客たちや、その帰りを待っている者たちなど、大空と大地を舞台に、それぞれ一人ひとりの行動が映し出されていくことで、事件が生み出す影響の大きさや異常性、そして危機を乗り越えるべく戦う人たちの感情が表現されるのだ。

 しかし、テロが生み出したあまりにも多くの危機にさらされ、機は不時着を検討せねばならなくなってくる。ここで登場するのが、タイトルにもある「非常宣言」という言葉だ。これは、機の飛行が困難な状況に陥った際の不時着要請であり、布告によって最も優先して着陸できる権利が与えられるのだという。同時にこれを発した時点で、いかなる命令をもきかず着陸を目指すという意志の表明となる。極端にいえば、“空飛ぶ治外法権”ともなり得るため、とりわけバイオテロの影響下にある飛行機が布告してしまえば、国家間の軋轢や衝突すら生み出しかねない。

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