『M3GAN/ミーガン』大ヒットを支える戦略と創造 恐怖と笑いの連鎖が作り出す心地よさ

『M3GAN』ヒットを支える戦略と創造

 製作費わずか1200万ドル、北米オープニング興行収入3042万ドル。2023年1月、映画『M3GAN/ミーガン』は、ハリウッドの業界人たちの予想をはるかに上回るロケットスタートで開幕した。本作は世界的ヒットとなり、累計興行収入1億7611万ドル(※2023年5月28日現在)を達成。その背景には、映画、リアル、オンラインが三位一体となった驚くべき戦略と創造があった。

 映画のタイトルである「M3GAN(ミーガン)」とは、“Model 3 Generative ANdroid(第3型 生体アンドロイド)”のこと。おもちゃメーカー・ファンキ社の開発者であるジェマによって生み出されるも、やむなく開発中断を余儀なくされたAI搭載の高性能人形だ。彼女は優れた学習能力を持ち、コミュニケーションを取るほど持ち主のことを深く理解することができる。

 ある日ジェマは、両親を事故で失った9歳の姪っ子・ケイディを引き取ることになった。しかし、仕事に忙殺される日々を送るジェマは、ケイディの面倒をなかなか見ることができず、ミーガンに相手役を任せることにする。「ケイディを守ること」を最優先にプログラムされたミーガンは、ケイディの心に寄り添い、たちまち親友さながらの存在となった。その成果を知ったジェマの上司はミーガンを高く評価するが、一方でケイディはミーガンに依存し、彼女なしでは感情のコントロールさえできなくなっていく。そんな矢先、ジェマの周囲で奇妙な事件が起こりはじめ……。

 『M3GAN/ミーガン』のプロデュースを務めたのは、『ソウ』シリーズや『死霊館』ユニバースで知られるジェームズ・ワンと、『パラノーマル・アクティビティ』『ハッピー・デス・デイ』シリーズのほか、『透明人間』(2020年)、『ブラック・フォン』(2022年)など野心的かつ高品質なスリラー映画を多数手がけるジェイソン・ブラム。現代のホラー/スリラー映画を代表するヒットメーカーの本格タッグが、この映画のヒットには欠かせなかった。

 スリラー映画の鬼才として知られるワンは、本作で原案も担当。これまで『ソウ』『死霊館』で恐ろしい人形のキャラクターを描いてきたものの、「人形が人を殺す映画はまだ作ったことがなかった」と笑う。参考にしたのは、『チャイルド・プレイ』シリーズのチャッキーだった。「チャッキーを見たことのない世代のために“殺人人形映画”を作りたかった」と語る。

 若い世代をターゲットにする作戦は見事に功を奏した。北米で公開直後に『M3GAN/ミーガン』を鑑賞した観客の、なんと6割以上が18~34歳の若年層だったのである。男女比も女性53%、男性47%と、性別を問わずに大きな注目を獲得した。しかし、ターゲットの客層をうまく呼び込めない映画が数多くある中、なぜこの映画は狙いを外さなかったのか?

 成功のカギを握ったのは、劇中でミーガンが披露する奇妙なダンスだった。2022年10月に公開された北米版予告編の第1弾は、テイラー・スウィフトの楽曲「It's Nice to Have a Friend」を使用し、ミーガンが踊りまくる場面をフィーチャー。そのキャラクター性がZ世代~ミレニアル世代に刺さったほか、同じ“Megan”である人気ラッパーのミーガン・ザ・スタリオンがすぐさま反応したことも話題に火をつけ、オンラインで2億5000万回以上再生される大ヒットとなっている。

映画『M3GAN/ミーガン』ダンスシーン映像

 とりわけ大きな「バズ」が起こったのがTikTokだった。公式の予告編だけでなく、楽曲を差し替えたファン・エディット、さらにはミーガンと同じダンスに挑戦するトレンドも発生。関連ハッシュタグ「#M3GAN」「#M3GANMovie」「#M3GANDance」の再生回数は累計15億回にものぼっている。

 さらに米ユニバーサル・ピクチャーズは、テレビCMやYouTube広告にも『M3GAN/ミーガン』をどんどん登場させたほか、ミーガンの格好をしたダンサーたちを現実の人気トーク番組やアメリカンフットボールのハーフタイムショー、ドールショップ、地下鉄、映画館などさまざまな場所に送り込み、これらの映像をSNSでさらにバズらせることに成功。本作のワールドプレミアでは、予告編に使用された「It's Nice to Have a Friend」を踊ったことで再び話題をさらった。

 このように『M3GAN/ミーガン』は、映画をきっかけとして、リアルとオンラインを両方巻き込む形で大きな盛り上がりを創り出し、観客の関心を惹くことに成功した。言いかえれば、ワンが計画した「新しい世代向けの殺人人形映画」にはそれだけの潜在的需要があったということだろう。

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