『M3GAN/ミーガン』大ヒットを支える戦略と創造 恐怖と笑いの連鎖が作り出す心地よさ
そしてもちろん、映画の大ヒットはプロモーションだけの力で実現できるものではない(特に本作は人気シリーズやキャラクターに依存しないオリジナル脚本だからなおさらだ)。観客の心をつかんだのは、最終的には映画そのものの完成度だったのである。大手映画評論サイトのRotten Tomatoesでは、批評家スコア95%、観客スコア78%という高評価を獲得。賛否分かれがちなスリラー映画において、この結果は稀有なものだ。
ワン&ブラムの期待に応えたのは、ワンの監督作『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021年)でも知られる脚本家アケラ・クーパーと、ニュージーランドでホラーコメディ映画を手がけてきた気鋭監督ジェラルド・ジョンストン。ワンは、恐怖と笑いをすれすれのセンスで織り交ぜられるジョンストンの演出こそが「この映画に必要なものだった」と語る(バズりまくったミーガンのダンスも、脚本ではなく監督独自のアイデアだったというのだから慧眼だ)。
クーパーによる脚本はオーソドックス&ストイックだが、巧みに伏線を張り、さらにツイストを効かせた展開で小気味よい。また、ジョンストン監督の演出は、恐怖と笑いの連鎖が作り出す緊張と緩和によって、観る者を心地よくラストまで導いてくれる。スリラー映画で「心地よい」というのも奇妙に思われるかもしれないが、さながら遊園地のお化け屋敷のような愉しさだ。そのバランス感覚たるや、まだ映画館でスリラー映画を観たことがないような中高生の観客にも安心してお薦めできるもの。ワンが新しい世代を意識したと強調するのも頷ける仕上がりだ。
そして見落としてはならないのは、ストーリーの根底に流れる切実なテーマ性である。本作に着手した当時、ジョンストン監督は父親になったばかりで、スマートフォンやタブレットといったガジェットにあふれる時代に子育てをする難しさを味わっていたそう。「世界はすぐに変化するので、子どもたちにテクノロジーを与えるより前に、親が子どもにすべきことを理解しなければいけないと思っていました。(本作は)自分の不安や苛立ちを映画として表現する機会でした」とは本人の談。パーソナルな問題意識が見え隠れする人間ドラマとして、大人の観客がほろ苦さをおぼえるところも本作のユニークさだ。
ちなみに『M3GAN/ミーガン』は北米での大ヒットを受け、早くも続編企画が始動済み。『M3GAN 2.0(原題)』と題され、すでに2025年1月17日に北米公開予定だ。すでにハリウッドを代表する新時代のスリラーアイコンとなったミーガン、その誕生と暴走をスクリーンで見届けてほしい。
参考
https://deadline.com/2023/01/m3gan-box-office-sequel-tiktok-marketing-1235214229/
https://deadline.com/2023/01/box-office-m3gan-avatar-the-way-of-water-1235212918/
■公開情報
『M3GAN/ミーガン』
6月9日(金)全国公開
出演:アリソン・ウィリアムズ、 ロニー・チェン、ヴァイオレット・マッグロウほか
監督:ジェラルド・ジョンストン
脚本:アケラ・クーパー
製作総指揮:アリソン・ウィリアムズ、マーク・デヴィッド・カッチャー、
ライアン・テュレック、マイケル・クリア、ジャドソン・スコット、アダム・ヘンドリックス、グレッグ・ジルリース
製作:ジェイソン・ブラム, p.g.a.、ジェームズ・ワン, p.g.a.
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公式サイト:m3gan.jp/.jp
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