『最後まで行く』は“地獄のトムとジェリー” 岡田准一&綾野剛の体術を武道家が評する

『最後まで行く』は“地獄のトムとジェリー”

 藤井道人監督、岡田准一主演、綾野剛共演の『最後まで行く』が、5月19日から公開されている。

 筆者は当然初日に観に行ったのだが、帰宅後はゆっくりお風呂に浸かり、晩酌をして早めに就寝した。このレビューの執筆には、一切手をつけなかった。

 なぜか。あまりにも凄いものを観て、興奮していたからだ。興奮し過ぎていたからだ。そんな状態でレビューを書いても、「すごいよ! めちゃくちゃ面白いよ! とにかく今すぐ観て!!」とだけ書いて終わってしまい、ついでに筆者のライター生命も終わってしまう。

 十分に睡眠を取り、いくぶん頭も冷静になったところで、さあ書こうと思ったが。困った。書きたいことは山ほどあるが、なにを書いてもネタバレになりそうだ。できるだけ、何も知らない状態で観てもらいたい。とりあえず、「あのシーンとあのシーンとあのシーンは、死ぬほどびっくりするぞ」ということだけ言っておく。

 この作品は同名の韓国映画のリメイクだ。こちらも名作だが、未見の方は絶対に先に観ないように。今作を観た後にオリジナル版を観て、比較検証するのが正しい作法だ。すでに観てしまったというかわいそうな人は……。がんばって忘れてくれ。

 ネタバレしないように細心の注意を払いながら、演者について触れていきたい。

 まずは当然、岡田准一師範についてだ。近年の岡田師範の役どころと言えば、「クールで冷静沈着でめちゃくちゃ強い」というパターンが多い。そういう岡田師範を観たいというニーズが高いのだから当然の話だし、事実それらの作品はみな面白かった。

 筆者も弱いなりに長年格闘技をやってきて、様々な人間を見てきた。格闘技に命を懸けている、もしくは懸けていた時期があるいわゆる“ガチ勢”と、仕事や家庭やその他の遊びの合間に練習をする“趣味勢”では、動きも、技の精度や威力も、そもそもオーラからして全然違う。「格闘技やってます!」という芸能人たちを見て、「この人は“趣味勢”を超えている!」と感じることはなかった。

 岡田准一を見るまでは。

 多忙な岡田准一にとって、格闘技の練習に割ける時間は相当限られているはずだ。“趣味勢”の域を超えるだけの練習量をこなすことは、本来不可能なはずだ。

 だが、各映画作品や『明鏡止水 〜武のKAMIWAZA〜』(NHK総合)で見せる動きは、限りなく“ガチ勢”のそれである。それがもう、筆者の理解の範疇を超えている。「バリバリ格闘技をやってきて、選手を引退してからジャニーズに入りました」とかでなければ、説明がつかない。

 身体能力の高さから、「ちょっと練習すればそれっぽい動きできます!」というタイプは確かに存在する。だが、岡田准一の動きには“芯”があり、技には“魂”がこもっているのだ。

 ……と、ここまで岡田准一の強さについての私論を述べてきたが、今作『最後まで行く』における岡田准一は、特に強くはない。ただの交通課の警官たちにも苦戦するし、あろうことか綾野剛に一方的にボコられるような役柄でもある。従って、前段までの考察ははっきり言って脱線である。お付き合いいただきありがとうございました。

 今作で岡田准一演じる“工藤”は、ヤクザから裏金を受け取っている汚職刑事だ。12月29日の夜、工藤は交通事故を起こし、相手を死なせてしまう。証拠隠滅のため、工藤は死体を車のトランクに入れ、逃げ去る。それをきっかけに、工藤はある“謎の男”に追われることとなる……。

 この工藤という人物、先述の汚職の噂などから警察内部での人望もなく、妻(広末涼子)とも離婚寸前である。逆ギレするし狼狽するしめちゃくちゃビビる。近年では珍しい、極めてかっこ悪い岡田准一である。このタイプの岡田准一には、既視感がある。2018年公開のジャパニーズ・ホラーの傑作『来る』(中島哲也監督)が、それだ。この作品の岡田准一も、超常現象に巻き込まれてビビりまくる。ただのやさぐれルポライターの役なので、強くはない。それどころか松たか子にぶっ飛ばされたりもする(ただ、このシーンでの吹っ飛び方は、さすがである)。

 ただ、この『来る』並びに『最後まで行く』が傑作となったのは、岡田准一のビビり演技に因るところが大きい。肉体的な動きのダイナミックさに目が行きがちだが、本来の岡田准一は、表情筋の動きも極めてダイナミックだ。肉体の鍛錬と同様、いや、それ以上に表情筋の鍛錬にも余念がないと思われる。最近「無表情で強い」役が続いていたため、久しぶりに岡田准一のダイナミックな表情筋が見られて、それだけでも筆者は満足だ。オリンピックぐらいの周期でいいから、このような役もまたやってほしい。

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