『水星の魔女』スレッタが向かう先は『エヴァンゲリオン』の碇シンジなのか?

『水星の魔女』『エヴァ』の主人公比較

 スレッタはどうなるのだろう。心の支えをすべて失い空っぽになって泣くしかなかったスレッタが、学園に来てからできた知り合いの支えを受けて立ち直り、泣くのを止めて進み始める可能性は高い。なぜなら彼女はヒロインだ。ホワイトベースを飛び出したアムロがランバ・ラルとの邂逅を経てホワイトベースに戻り、別れや出会いを繰り返しながら成長していったような道を辿らせるのが物語としての常道だ。

 ミオリネも、スレッタがプロスペラによって作り出された道具のような存在であることを知り、使い捨てられて不幸な道を歩まないようガンダム・エアリアルから遠ざけただけ。そこにあるスレッタへの親愛に衰えはない。再びスレッタを支えに回ってふたりで運命を切り開こうと戦い始めるのだといった期待も強く浮かぶ。

 プロスペラについては、スレッタを突き放した理由が、道具として生み出しながらも育てる中でスレッタに情が移って守ろうとしたからなのか、蘇ろうとしているエリクト以外は眼中にないからなのかが伺い知れない。スレッタとミオリネがエリクトの敵となるようなら、プロスペラは碇ユイの復活だけを目的にシンジを使い捨てたゲンドウのように、ふたりの前に立ちふさがりそうだ。

 そうなっていった先、迎える結末はどのようなものになるのだろう。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でシンジは、泣くことによって凍りついていた感情を再起動させてすべてを受け入れた。ミサトの下へと戻りエヴァ初号機を駆って戦い、式波・アスカ・ラングレーを取り戻し、レイを蘇らせた。真希波・マリ・イラストリアスという“第3の少女”といっしょに再構築された世界を走り出した先に、泣くことすらできない絶望はもう訪れないだろう。

 そこまでの強さをスレッタは得られるのか。空っぽになった心を埋めるだけの自覚を持ち、信頼を受けて世界へと戻っていけるのだろうか。『水星の魔女』のこれからの展開に抱く興味の核はそこになる。気になることがあるとしたら、そして鍵になりそうなことがあるとしたら、エリクト自身が何を思っているかだ。無邪気にプロスペラからの愛情を喜ぶのか、それとも共に成長してきたスレッタへの心情を強くするのか。

 TVシリーズ第1期のオープニングテーマとなったYOASOBI「祝福」の原作小説で、シリーズ構成の大河内一楼が書いた「ゆりかごの星」の中で、エアリアルに宿る「僕」はスレッタに向けて、「失うものを数えるより、掴みたいものを数える方がずっといい。学校に行けるのが、お母さんの復讐のためだとしても。勇気づけたのが、お母さんの言葉だったとしても。スレッタ。君はそれ以上にいっぱい掴めばいい」といった感情を向ける。

 エリクトは確実にスレッタを愛している。産みの親のプロスペラには逆らえないと言いながらも、スレッタを憎んで突き放すような心情にはない。「行こう、エアリアル。一緒なら、きっと大丈夫」と言うスレッタに、「もちろん、一緒にいるよ。だって僕らは、家族だから」とつぶやくエアリアル=エリクトの感情に偽りがないのなら、エヴァ初号機の中でシンジを見守り続け、現実世界へと送り出したユイのようにスレッタを支えてくれるはずだ。

 未来はエアリアル次第だ。

■放送情報
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
Season2:MBS/TBS系全国28局ネットにて、毎週日曜17:00〜放送
企画・制作:サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
監督:小林寛
出演:市ノ瀬加那(スレッタ・マーキュリー)、Lynn(ミオリネ・レンブラン)、阿座上洋平(グエル・ジェターク)、 花江夏樹(エラン・ケレス)、古川慎(シャディク・ゼネリ)
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン原案:モグモ
メインキャラクターデザイン:田頭真理恵、
キャラクターデザイン:戸井田珠里、高谷浩利
メカニカルデザイン:JNTHED、海老川兼武、稲田航、形部一平、寺岡賢司、柳瀬敬之
音楽:大間々昂
©創通・サンライズ・MBS
公式サイト:g-witch.net
公式Twitter:@G_Witch_M
公式TikTok:@g_witch_m

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