『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』はまったく色褪せない 卓越した作画表現は必見

『わたしの好きな歌』は作画表現の宝庫

 『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』がソフト化とともに、Netflixなど各種配信サービスでも配信が開始された。90年代を代表するアニメ映画と評価されながらも、長らく観る機会が限られていた作品だけあって、気軽に観られるようになったことに歓喜の声が上がっている。今回は本作の魅力と見どころについて語っていきたい。

※本稿は物語の結末に触れています

 『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』は1992年に公開された『ちびまる子ちゃん』シリーズの2作目のアニメ映画。今作の特徴としては、原作・TVアニメと同様に1970年代の静岡を舞台とした、まる子を中心とした日常を描いたコメディ混じりのドラマパートとともに、古くは笠置シヅ子から、大瀧詠一、細野晴臣などの当時の人気アーティストの楽曲と作画の共演が楽しめる作品となっている点にある。

 物語はまる子が学校で「めんこい仔馬」という楽曲を習い、図工の絵の題材とするのだが、描き方を悩んでいる際に、似顔絵描きのお姉さんと出会う。お姉さんとの交流を深めていく中で「めんこい仔馬」の持つ悲しい物語を知り、その気持ちを持ちながら絵を描くと、その絵が学校で受賞することになり、お姉さんに知らせるのだが……といった内容だ。

 本作はアニメ映画ファンの中でも高い評価を獲得していたのだが、90年代にVHSやLDが発売されたのち、DVD・Blu-ray化がなされていなかった。そのためにVHSなどが時代の流れと共に少なくなると、映画館でのリバイバル上映や、TVの映画チャンネルでの放送を待つなど、視聴方法が限られていたために、隠れた名作と呼ばれていた。 本作の最大の特徴は音楽と作画技術のミックスだ。近年は特に音楽アニメ作品が全盛と言える時代であり、アイドル作品やミュージカル、クラシックやジャズなどの多彩な音楽アニメが楽しめる時代だ。しかし、当時はセル画でアニメが制作されることが主流の時代であり、音と絵を合わせるのに高い技術を要する時代だった。その中でも、日常的なコメディパートとともに、ジャンルや年代を超えた音楽と幻想的な映像表現で観客を魅了した。

 クリエイター陣も豪華だ。『映画ドラえもん』シリーズの監督を長きにわたり務めるなど、昭和のアニメを支えたレジェンドである芝山努をはじめ、世界的人気を誇る湯浅政明、最近では『REVENGER』の監督も務めるなど、精力的な活動が目立つ藤森雅也がED作画を担当しており、現代の名匠たちの仕事を堪能できる1作でもあるのだ。この当時の若手・ベテランの実力の高さが、本作を観るだけでも感じられるだろう。

 今作を語る際に絶対に外せないのが、なんといっても湯浅政明が担当した「1969年のドラッグレース」だ。花輪くんとお付きの人であるヒデじいが車に乗っている車に同乗したまる子が、奇怪な車旅行を楽しむ様子が描かれている。原色を多用し、荒唐無稽なようでありながら迫力があり、まさにアニメの面白さを追求した湯浅らしいサイケデリックな作画の代表例と言えるだろう。湯浅の監督作『夜明け告げるルーのうた』などにつながる原点としても一見の価値がある。

 また芝山努が担当した「ヒロシの入浴」も、お風呂ののんびりとした気持ちよさを中東風の異国情緒が感じられるアニメ表現でみせていて面白い。他にもサブキャラクターである、はまじ、関口、ブー太郎の3人が楽曲を歌う「B級ダンシング」は、まるでビートルズの公演を観ているようで、ライブ演出としても観客がノリノリになる。インストゥルメンタルから、アジア調、ロックバンド調、童謡調まで様々な楽曲が観客を飽きさせない。

 物語が絵を描くことに向き合っていることもあり、まさに絵を描く、動かす表現といえるアニメ表現の面白さや多様さを、各クリエイターが追求していることにも注目だ。幻想的なものから、激しい動きの伴う映像、ゆったりとした表現など、現代ではむしろ失われつつあるように感じられるアニメ表現もあり、約30年前の作品ながらも唸る作画表現の宝庫だ。

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